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肘関節の伸展に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説

肘関節の伸展運動は、上腕の背側を走行する上腕三頭筋が主に作用して行われます。

肘関節の伸展に働く筋肉の種類は少なく、主動作筋である上腕三頭筋以外には、肘筋という小さな筋肉が作用しているだけです。

このページでは、肘関節の伸展に作用する筋肉の種類と、その走行・支配神経から拮抗筋までを詳しく解説したいと思います。

肘関節伸展運動の概要

肘関節は上腕骨と橈骨・尺骨の3つの骨で構成される関節です。

そのため、肘関節と一言に言っても、その中には以下の3つの関節が存在しています。

  • 腕尺関節
  • 腕橈関節
  • 上橈尺関節

肘関節の運動は、これら3つの関節の複合運動ですが、ここで解説する伸展運動に関しては、腕尺関節で主に行われます。

腕尺関節は、蝶番関節と呼ばれていて、屈曲・伸展という前後の運動しかできない形状の関節です。

肘関節は、解剖学的肢位では伸展位になっていて、ほとんど伸展可動域はありませんが、最大屈曲位からの伸展運動は、約150°の可動域を持っています。

自然に脱力すると、肘関節は自重で伸展していますが、完全伸展位ではなく、軽度屈曲位になっています。

肘関節の伸展は、前額軸・矢状面上での運動です。

肘関節の伸展に作用する筋肉の一覧

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
上腕三頭筋 長頭 : 肩甲骨関節下結節
外側頭 : 上腕骨骨幹部
内側頭 : 上腕骨骨幹部
尺骨肘頭 橈骨神経 C6 – C8
肘筋 上腕骨後面 尺骨 橈骨神経 C6 – C8

肘関節の伸展に作用する筋肉は、上の表の通りです。

関与する筋肉は少ないですが、上腕三頭筋という大きな筋肉が、肘関節の伸展に強力に作用します。

肘関節伸展の主動作筋

肘関節の伸展運動は、重力で自然に行われることがほとんどなので、通常あまり筋が収縮して行われることはありません。

しかし、運動時や抵抗下で肘関節を伸展させる場合は、上腕三頭筋が主動作筋になって、強力に働きます。

上腕三頭筋の起始・停止・支配神経

上腕三頭筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
上腕三頭筋 長頭 : 肩甲骨関節下結節
外側頭 : 上腕骨骨幹部
内側頭 : 上腕骨骨幹部
尺骨肘頭 橈骨神経 C6 – C8

上腕三頭筋は、肘関節伸展運動の主動作筋です。

名前の通り、3つの起始を持つ筋肉で、長頭・外側頭・内側頭の3つに分かれて起こります。

長頭は、肩甲骨の関節下結節から起こり、外下方に走行する最も長い走行を持った筋肉です。

外側頭は、長頭の次に長く、上腕骨近位骨幹部から起こり、内側頭は上腕骨遠位骨幹部から起こります。

2つの筋肉は、下方向に走行し、最終的には全ての筋が合流して、尺骨肘頭や肘関節の後面、関節包に停止します。

上腕三頭筋の支配神経は全て橈骨神経の支配を受けています。

上腕の背側の多くを覆う大きな筋肉で、主な働きは肘関節の伸展です。

他の作用として、長頭が肩甲骨から起こっていることから、肩関節の伸展や内転の補助筋としての働きも持っています。

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肘関節伸展の補助筋

肘関節の伸展に主に作用するのは、上腕三頭筋ですが、その働きをサポートする形で補助筋が働いています。

肘関節の伸展は多くの筋に支えられている訳ではなく、肘筋という小さな筋肉だけが、肘関節伸展の補助筋として働いています。

肘筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
肘筋 上腕骨後面 尺骨 橈骨神経 C6 – C8

肘筋は上腕骨後面や、外側上顆から起こり、やや内方に走行して尺骨肘頭や肘関節の関節包に停止する小さな筋肉です。

支配神経は、上腕三頭筋と同じく橈骨神経の支配を受けています。

肘筋は非常に小さな筋肉で、力も弱いため、肘関節の伸展を補助する以外の作用を持ちません。

上腕三頭筋と合流して区別が付かないような走行を取ることもあるので、あくまでも上腕三頭筋の補助的な役割をしている筋肉と捉えるのが良いでしょう。

肘関節伸展の拮抗筋

肘関節の伸展に対する拮抗筋は、肘関節屈曲の主動作筋である上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋です。

肘関節伸展に作用する筋に対して、多くの筋が拮抗筋として挙げられます。

肘関節の屈曲は、前腕の回内・回外角度によって作用する筋肉が異なりますが、解剖学的肢位での運動を考えると、上腕二頭筋が最も肘関節伸展の拮抗筋として作用します。

上腕二頭筋の起始・停止・支配神経

上腕二頭筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
上腕二頭筋 短頭 : 肩甲骨烏口突起
長頭 : 肩甲骨関節上結節
橈骨粗面 筋皮神経 C5 – C6

上腕二頭筋は、名前の通り2つの起始を持つ筋肉で、長い走行を持つ長頭と、短い走行を持つ短頭があります。

長頭は肩甲骨の関節上結節から起こり上腕骨の結節間溝を通り、下方に走行します。

短頭は肩甲骨の烏口突起から起こり、下方に走行し、長頭と合流して橈骨粗面に停止します。

上腕二頭筋は、収縮する様子が簡単に確認できることと、力こぶを作ることで広く知られた筋肉です。

上腕二頭筋の緊張が強いと、肘関節伸展運動の際に十分に筋の伸張が得られず、肘関節伸展可動域に影響を与えます。

上肢を自然に脱力した際に、肘の伸展角度が左右で異なる場合は、この筋肉の過度な緊張が考えられます。

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肘関節伸展に作用する筋肉のまとめ

肘関節の伸展には、上腕三頭筋という大きな筋肉が主動作筋として作用し、肘筋がその補助作用を担っています。

自然な脱力下では、肘関節は常に伸展しているので、あまり収縮を意識することはないかもしれませんが、抵抗下での伸展には大きな力を発揮します。

バランス療法では、肘関節の伸展は肩関節の屈曲筋と協調して働くと考えていて、肩関節の検査の際に、肘の伸展角度を見ることで、肘関節伸展筋と屈曲筋の緊張差を調べます。

肘関節の伸展可動域が少ない場合は、拮抗筋である屈曲筋の緊張を弛緩させることを狙い、伸展筋の働きを促すように手技を行います。

関与する筋肉の種類が少ないので、肘関節の伸展は上腕三頭筋の走行をイメージしておくと良いでしょう。