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肩関節の伸展に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説

肩関節の伸展運動は、広背筋という大きな筋肉が作用します。

その他にも、肩甲骨から起こる大円筋などの筋肉や、補助的に上腕三頭筋といった上肢の筋肉も肩関節の伸展に働きます。

このページでは、肩関節の伸展に作用する筋肉の種類と、その起始・停止、支配神経から拮抗筋までを詳しく解説します。

肩関節伸展運動の概要

肩関節は、肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。

しかし、これは狭義の肩関節と呼ばれていて、機能で見ると肩甲骨・上腕骨・鎖骨・胸骨・胸郭がその運動に関わっていることから、これら全てを合わせて広義の肩関節と呼びます。

肩関節の屈曲運度は、これら全ての関節で180°という大きな可動域を作りますが、肩関節の伸展運動は、肩甲上腕関節が主に運動を行います。

肩関節の伸展は、前額軸・矢状面上での運動で、正常だと約50°の可動域を持っています。

肩関節の伸展に作用する筋肉の一覧

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
広背筋 第6胸椎から第5腰椎
腸骨稜
上腕骨小結節稜 胸背神経 C6 – C8
三角筋後部 肩甲骨
肩甲棘下部外側
上腕骨骨幹部
三角筋粗面
腋窩神経 C5 – C6
大円筋 肩甲骨下角 上腕骨結節間溝 肩甲下神経 C5 – C6
上腕三頭筋長頭 肩甲骨関節下結節 尺骨肘頭 橈骨神経 C6 – C8

肩関節の伸展に作用する筋肉は、上の表の通りです。

主な動作は、広背筋や三角筋後部繊維が行い、補助的に上腕三頭筋が肩関節の伸展に働きます。

大円筋に関しては、肩関節の伸展に作用するというよりも、内旋や内転の作用がメインですが、肩関節屈曲位からの伸展に作用すると考えられています。

肩関節伸展運動の主動作筋

肩関節の主動作筋は、広背筋と三角筋後部繊維です。

これらの筋肉について、さらに詳しく見ていきましょう。

広背筋の起始・停止・支配神経

広背筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
広背筋 第6胸椎から第5腰椎
腸骨稜
上腕骨小結節稜 胸背神経 C6 – C8

広背筋は、脊柱に起始を持ち、上腕骨まで走行する、人体で最も大きな筋肉です。

第6胸椎から第5腰椎から広い範囲で起始を持ち、上外方に向かって走行し、上腕骨の前方に回り込み、上腕骨小結節稜から結節間溝の底部に停止します。

支配神経は、胸背神経の支配を受けます。

広い走行を持つ筋が、上腕骨近位に集まって停止するので、肩関節の伸展の他にも、内転や内旋運動に強力に作用します。

また、肩関節の運動だけではなく、脊柱の伸展や骨盤の挙上といった働きを持っているので、上肢から体幹が関わるあらゆる運動に関与する筋肉です。

また、咳やくしゃみなどの強い呼気の際に、強く収縮する筋肉でもあります。

バランス療法では、肩関節屈曲運動の検査で、この筋肉がどれだけ抵抗なく伸張するかを、重要視しています。

この筋が左右バランスよく働くことで、肩関節の運動だけでなく、体幹の運動や支持機能にも強く影響すると考えているからです。

三角筋後部の起始・停止・支配神経

三角筋後部繊維

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
三角筋後部 肩甲骨
肩甲棘下部外側
上腕骨骨幹部
三角筋粗面
腋窩神経 C5 – C6

三角筋後部繊維は、肩甲骨の肩甲棘下部外側から、外方に走行し、上腕骨の三角筋粗面に停止します。

支配神経は、腋窩神経です。

三角筋は、前部繊維が屈曲に作用し、後部繊維は伸展に作用するので、1つの筋で拮抗する作用を持つ筋肉ということになります。

その走行を見ると、後部繊維は肩甲骨の肩甲棘下縁に起始を持ち、前部と後部で肩関節を前後から覆うような走行を取っているので、屈曲作用と伸展作用がイメージできます。

三角筋は、前部が屈曲・後部が伸展・中部が外転というように、各部位によって異なる作用を持っています。

内旋や外旋にも補助的に作用するので、屈曲や伸展だけではなく肩関節のほとんどの動きに関与する筋肉です。

肩関節伸展の補助筋

肩関節の伸展に補助的に作用するのは、大円筋と上腕三頭筋です。

2つの筋肉について、詳しく見ていきましょう。

大円筋の起始・停止・支配神経

大円筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
大円筋 肩甲骨下角 上腕骨結節間溝 肩甲下神経 C5 – C6

大円筋は、肩甲骨下角の外側縁から起こり、上外方に走行し上腕骨結節間溝付近に停止します。

支配神経は、肩甲下神経です。

筋の走行としては短い筋肉で、肩関節の伸展に補助的に作用します。

その走行からイメージできる様に、大円筋は肩関節を内旋させる働きがメインです。

上腕三頭筋長頭の起始・停止・支配神経

上腕三頭筋長頭

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
上腕三頭筋長頭 肩甲骨関節下結節 尺骨肘頭 橈骨神経 C6 – C8

上腕三頭筋は、全体で見ると肘の伸展筋が主な作用ですが、上腕三頭筋の長頭だけは肩関節の伸展に補助的に働きます。

上腕三頭筋は、長頭・外側頭・内側頭という3つの起始を持っていて、長頭だけが唯一肩甲骨の関節下結節から起こり、肘関節を超えて尺骨肘頭に停止する2関節筋になっています。

その他の2頭は、上腕骨から起こり尺骨肘頭に停止する単関節筋なので、肩関節の運動には関与しません。

支配神経は、橈骨神経の支配を受けます。

肩関節伸展の拮抗筋

肩関節の伸展に対する拮抗筋は、肩関節屈曲の主動作筋である三角筋前部と烏口腕筋です。

こういった筋の緊張が強いと、肩関節の伸展運動の障害となり、十分な可動域を発揮できなくなります。

三角筋の起始・停止・支配神経

三角筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
三角筋
前部
鎖骨外側1/3 上腕骨骨幹部
三角筋粗面
腋窩神経 C5 – C6

三角筋は、伸展の主動作筋でありながら、伸展の拮抗筋でもあります。

それは、前部繊維と後部繊維の走行を見れば、容易にイメージができます。

肩関節は、屈曲・伸展という単純な動きだけでなく、内外転や内外旋という作用も持っているため、肩関節の運動に関与する筋肉の種類はとても多くなります。

まずは、一方向の単純な動きから理解していくのが良いでしょう。

肩関節の屈曲に作用する筋肉についてはこちら >

肩関節の伸展に作用する筋肉のまとめ

人は日常生活の中で肩関節を前方に動かす動作の方が圧倒的に多いので、肩関節の伸展運動は、あまり意識して行われていません。

ただ、歩行時の肩関節は必ず屈曲と伸展運動を繰り返しています。

肩関節の伸展には、広背筋という大きな筋肉が関与しているので、緊張しやすい屈曲筋に対して、伸展筋がどう機能するかというのは、全体の筋のバランスで見てもとても重要です。

バランス療法では、肩関節の屈曲筋・伸展筋の緊張差を検査して、手技を行いますが、この両方の働きが整うように、様々なテクニックを用いて施術します。