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肩関節の屈曲に作用する筋肉の種類と起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説

肩関節の屈曲運動には、上腕骨に付着する三角筋が主に作用しますが、補助的に大胸筋の一部や前鋸筋が働きます。

このページでは、肩関節の屈曲に作用する筋肉の種類と、その起始・停止、支配神経から拮抗筋までを詳しく解説します。

肩関節屈曲運動の概要

肩関節は、肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。

しかし、これは狭義の肩関節と呼ばれていて、機能で見ると肩甲骨・上腕骨・鎖骨・胸骨・胸郭がその運動に関わっていることから、これら全てを合わせて広義の肩関節と呼びます。

肩関節の屈曲はこれらの関節の複合運動で、前額軸・矢状面上での運動です。

肩関節の屈曲可動域は、正常であれば約180°です。

肩関節の屈曲に作用する筋肉の一覧

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
三角筋
前部
鎖骨外側1/3 上腕骨骨幹部
三角筋粗面
腋窩神経 C5 – C6
烏口腕筋 肩甲骨烏口突起 上腕骨骨幹部内側 筋皮神経 C5 – C7
大胸筋
鎖骨部
鎖骨 上腕骨 外側胸筋神経 C5 – C6
前鋸筋 第1 – 第8肋骨 肩甲骨内側腹側面 長胸神経 C5 – C7

肩関節の屈曲に作用する筋肉は、上の表の通りです、

主な動作は、三角筋前部繊維や深層にある烏口腕筋が行い、その他の筋が補助的に肩関節の屈曲に働きます。

大胸筋は肩関節屈曲の初期に働き、前鋸筋は肩甲骨を上方回旋させることで、肩関節の屈曲を助けます。

肩関節屈曲の主動作筋

肩関節の屈曲の主動作筋である、三角筋と烏口腕筋についてさらに詳しく見てみましょう。

肩関節の屈曲というと、もう少し様々な筋肉が関与しているイメージですが、ここでの主動作筋は、あくまでも屈曲(前方挙上)に働きを限定しています。

三角筋前部の起始・停止・神経支配

三角筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
三角筋
前部
鎖骨外側1/3 上腕骨骨幹部
三角筋粗面
腋窩神経 C5 – C6

三角筋前部繊維は、鎖骨から起こり、外下方に走行し、上腕骨の三角筋粗面に停止します。

神経支配は、腋窩神経の支配を受けます。

三角筋全体としては、鎖骨・肩甲骨から前部・中部・後部の3つの繊維が起こり、肩関節を覆うように走行し、全て上腕骨に停止します。

そのため、屈曲・外転・伸展と3つの方向にそれぞれ作用します。

1つの筋肉で屈曲と伸展の拮抗作用を持つ珍しい筋肉ですし、外転作用から角度が90°を超えると、作用が反転して内転に働くという『習慣的機能の転倒』を起こす筋肉としても知られています。

肩関節屈曲の主動作筋ですが、あくまでも前部繊維の動作だけを切り取ったものなので、他の作用も合わせてイメージしておくのが良いですね。

烏口腕筋の起始・停止・支配神経

烏口腕筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
烏口腕筋 肩甲骨烏口突起 上腕骨骨幹部内側 筋皮神経 C5 – C7

烏口腕筋は、三角筋前部繊維と共に肩関節の屈曲に作用する筋肉です。

肩甲骨の烏口突起から起こり、外下方に走行しますが、その走行は三角筋前部繊維よりも内側に向かい、上腕骨骨幹部内側に停止します。

神経支配は、筋皮神経の支配を受けます。

烏口腕筋は、上腕を走行する筋肉の中で最も小さい筋肉です。

また、表層に他の筋が走行するため、深層に位置していて、触診することも困難な筋肉です。

烏口腕筋の屈曲以外の作用として、その起始と停止から、肩関節の内転があります。

解剖学的基本肢位からの屈曲では、三角筋前部と烏口腕筋が上腕骨を内・外側から支えて運動を起こしているとイメージすると良いでしょう。

肩関節屈曲の補助筋

肩関節の屈曲は、大胸筋や前鋸筋といった筋が補助的に働き、肩関節の運動を助けています。

屈曲の補助筋について、さらに詳しく見ていきましょう。

大胸筋鎖骨部の起始・停止・支配神経

大胸筋鎖骨部

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
大胸筋
鎖骨部
鎖骨 上腕骨 外側胸筋神経 C5 – C6

大胸筋は、主な働きとして上腕骨を内転させる強力な筋肉です。

しかし、鎖骨部の走行は鎖骨から上腕骨に向かって外下方に走行しているため、肩関節屈曲の初期に作用します。

支配神経も、鎖骨部とその他の胸肋部では分かれていて、鎖骨部は外側胸筋神経の支配を受け、胸肋部は内側胸筋神経の支配を受けます。

肩関節の屈曲初期に働いたあと、屈曲角度が大きくなると、筋収縮を起こしません。

前鋸筋の起始・停止・支配神経

前鋸筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
前鋸筋 第1 – 第8肋骨 肩甲骨内側腹側面 長胸神経 C5 – C7

前鋸筋は、第1 – 第8肋骨から起こり、肩甲骨の腹側面を走行し、肩甲骨の内側に停止します。

肩甲骨と肋骨の間を走行している薄く広い筋肉です。

支配神経は長胸神経です。

前鋸筋は肩関節への走行を持たず、体幹に起始と停止を持つ筋肉ですが、肩甲骨の上方回旋に作用し、肩関節の屈曲運動を補助します。

大胸筋が初期の屈曲を補助するのに対して、前鋸筋は肩関節の屈曲60°以上になった時に収縮を始め、肩甲骨を上方に回旋させ、関節窩を上方に向けていきます。

この働きがなければ、肩関節の屈曲運動は180°まで行われず、約120°で止まってしまいます。

肩関節屈曲の拮抗筋

肩関節の屈曲に対して、拮抗する作用を持つ一番大きな筋肉は広背筋です。

その他にも、大円筋や肩関節の屈曲筋としても働く三角筋の後部が、屈曲に対して拮抗する作用を持っています。

広背筋の起始・停止と支配神経

広背筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
広背筋 第6胸椎から第5腰椎
腸骨稜
上腕骨小結節稜 胸背神経 C6 – C8

広背筋は、人体の中で最も大きな筋肉です。

第6胸椎から第5腰椎までという広い起始をもち、上外方に走行し、やや前方に回り込み上腕骨の小結節稜や結節間溝の底部に停止します。

肩関節屈曲の拮抗筋として、伸展作用の他に肩関節の内転にも作用します。

バランス療法では、肩関節の屈曲検査をした時に、左右の肩関節に屈曲の可動域差があるのは、広背筋をはじめとした、肩関節伸展筋の伸張に差があるためだと考えています。

肩関節の屈曲筋と合わせて、走行をイメージしておきたい筋肉です。

肩関節の伸展に作用する筋肉についてはこちら >

肩関節の屈曲に作用する筋肉のまとめ

肩関節の運動は可動域が広く複雑ですし、関与している筋肉も多いですが、こうして1つ1つの動きから作用している筋を理解していくと良いでしょう。

ここで肩関節の屈曲筋として挙げたのは、あくまでも『肩関節を中間位で屈曲させた場合』の筋肉です。

例えば肩関節外旋位での屈曲には上腕二頭筋が関与していたりと、異なる筋肉の作用が出てくるので、関節の位置と運動の方向をしっかりイメージしておきましょう。

バランス療法では、肩関節の屈曲筋・伸展筋の緊張差を調べる検査を必ず行いますが、この検査では純粋に屈曲筋と伸展筋の働きを見る目的で行います。

そのため、検査を行う際には、肩関節に外旋や内旋などのポジションの変化を起こさせないように、注意深く検査することが大切です。