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股関節の内転に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説

股関節内転運動には、大内転筋・短内転筋・長内転筋といった、内転筋群が主動作筋として働きます。

その他にも、寛骨から起こるいくつかの筋が、内転運動の補助筋として作用しています。

このページでは、股関節の内転に作用する筋肉の種類と、その走行・支配神経から拮抗筋までを詳しく解説します。

股関節内転運動の概要

股関節は、寛骨と大腿骨で構成される、人体の中で最も大きな関節です。

形状は臼状で、関節の可動域は広いですが、内転に関しての可動域は少なく、正常でも20°までと言われています。

20°以上の角度になると、寛骨や腰椎、反対側の股関節など、他の関節の運動が伴います。

股関節の内転は、矢状軸・前額面上での運動です。

股関節の内転に作用する筋肉の一覧

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
大内転筋 坐骨・恥骨 大腿骨内側 閉鎖神経 L2 – L4
長内転筋 恥骨 大腿骨内側 閉鎖神経 L2 – L4
短内転筋 恥骨 大腿骨内側 閉鎖神経 L2 – L4
恥骨筋 恥骨櫛 大腿骨粗線
恥骨筋線
大腿神経 L2 – L3
薄筋 恥骨 脛骨骨幹部内側 閉鎖神経 L3 – L4
外閉鎖筋 坐骨枝・恥骨下枝 大腿骨大転子 閉鎖神経 L3 – L4
大殿筋 腸骨・仙骨・尾骨 大腿骨殿筋粗面
腸脛靭帯
下殿神経 L5 – S2

股関節の内転に作用する筋肉には、上の表のような種類があります。

内転筋群が主な内転作用を担っていますが、その他にも恥骨筋や薄筋など、大腿の内側を走行する筋が、内転に働きます。

可動域自体は少ないですが、比較的多くの筋肉が関与しています。

股関節内転の主動作筋

股関節内転の主な動作は、大内転筋・長内転筋・短内転筋という3つの筋肉で構成される内転筋群と、恥骨筋・薄筋が収縮することで行われます。

それぞれの筋肉について、さらに詳しく見ていきましょう。

大内転筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
大内転筋 坐骨・恥骨 大腿骨内側 閉鎖神経 L2 – L4

大内転筋は、恥骨下枝・坐骨下枝から起こり、下外方に走行し、大腿骨内側のほぼ全体を覆うように、粗線から内側顆上部に停止します。

大内転筋は、内転筋群の中で最も大きな筋肉で、大腿骨の広い範囲に付着しています。

その走行を見ると、上部・中部・下部に別れていて、上部は恥骨からほぼ水平に走行し、中部は下外方、下部繊維はほぼ垂直に走行しています。

大内転筋全体としての主な作用は、股関節の内転ですが、その他にも上部繊維が股関節屈曲の補助筋として働き、下部繊維が股関節の伸展に作用します。

長い走行を持っている筋肉であるとは言え、膝関節をまたいでいないので、作用するのは股関節の運動のみです。

神経支配は、閉鎖神経ですが、下部繊維のみ坐骨神経の支配を受けると記述している書籍もあります。

長内転筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
長内転筋 恥骨 大腿骨内側 閉鎖神経 L2 – L4

長内転筋は、恥骨から起こり、下外方に走行し、大腿骨粗線内側唇の中央1/3付近に停止する筋肉です。

内転筋群の中で、最も前方に走行する筋肉で、大内転筋に次いで、広い筋腹をもつ筋肉です。

支配神経は閉鎖神経です。

長内転筋は、大内転筋と共に股関節を内転する作用の他、股関節屈曲の補助筋としての作用も持っています。

長内転筋は、鼠径靭帯・縫工筋・長内転筋が成す大腿三角(スカルパ三角)の構成筋としても知られています。

短内転筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
短内転筋 恥骨 大腿骨内側 閉鎖神経 L2 – L4

短内転筋は、恥骨体・枝から起こり、下外方に走行し、大腿骨粗線内側唇近位1/3に停止します。

短内転筋は、内転筋群の中で最も小さい筋肉で、長内転筋の上部を走行します。

支配神経は、他の内転筋群と同じく閉鎖神経の支配を受けます。

大内転筋・長内転筋と共に、股関節の内転に作用し、大内転筋の上部繊維と同じく、股関節屈曲の補助筋としても作用します。

恥骨筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
恥骨筋 恥骨櫛 大腿骨粗線
恥骨筋線
大腿神経 L2 – L3

恥骨筋は、恥骨櫛から起こり大腿骨粗線・恥骨筋線に停止する、短い走行の筋肉です。

内転筋群と平行に走行し、内転筋群と共に股関節の内転に作用します。

また、股関節屈曲の補助筋としての作用も持っています。

恥骨筋は、内転筋群よりもやや上部を走行していて、大腿神経の支配を受けています。

薄筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
薄筋 恥骨 脛骨骨幹部内側 閉鎖神経 L3 – L4

薄筋は、恥骨下枝から起こり、下方に向かって走行し、脛骨骨幹部内側に停止する筋肉です。

半腱様筋・縫工筋と共に鵞足と呼ばれる共同腱を作る事でも知られています。

薄筋は、大腿内側部の最も表層を走行する筋肉で、主な動作として股関節の内転作用があります。

他にも、膝関節の屈曲と内旋に補助的に作用する筋肉です。

股関節内転の補助筋

内転筋群と恥骨筋・薄筋がメインに働く股関節内転運動を補助する筋肉として、深部外旋六筋の1つである外閉鎖筋と、股関節伸展筋の大殿筋があります。

股関節内転を補助する筋について、詳しく見ていきましょう。

外閉鎖筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
外閉鎖筋 坐骨枝・恥骨下枝 大腿骨大転子 閉鎖神経 L3 – L4

外閉鎖筋は、坐骨枝・恥骨下枝や閉鎖口周縁から起こり、外方に走行し、大腿骨大転子に停止する筋肉です。

寛骨から大腿骨上部という短い走行の筋肉ですが、扁平で幅の広い筋肉です。

深部外旋六筋の1つで、主な作用は股関節の外旋ですが、股関節の内転に補助的に作用します。

ちなみに、内閉鎖筋は股関節外転の補助筋として作用します。

大殿筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
大殿筋 腸骨・仙骨・尾骨 大腿骨殿筋粗面
腸脛靭帯
下殿神経 L5 – S2

大殿筋は、寛骨から起こり、外方に走行し、大腿骨殿筋粗面や腸脛靭帯に停止する、筋肉です。

主な作用は、股関節の伸展で、その作用は強力ですが、大殿筋の下部繊維は、その走行から股関節の内転に補助的に作用します。

大殿筋は、寛骨の大部分を覆い、大腿骨に向かって走行するため、股関節の屈曲以外全ての運動に関与します。

下部繊維は、内転の補助筋としての働きを持ちますが、上部繊維は外転の補助筋としての作用を持っています。

股関節内転の拮抗筋

股関節の内転運動に対する拮抗筋は、股関節の外転に作用する中殿筋や小殿筋があります。

股関節外転筋の緊張が強いと、股関節を内転方向に運動する際、外転筋が伸張されず、十分な可動域を得ることができません。

中殿筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
中殿筋 腸骨稜 大腿骨大転子 上殿神経 L4 – S1

股関節を外転させる主要な筋肉は、中殿筋です。

腸骨稜から股関節の外側を覆うように走行している筋肉で、股関節の外転に作用する他にも、外側から股関節の動揺性を安定させたり、股関節の屈曲・伸展それぞれの補助筋としても作用するなど、股関節の多くの運動に関与します。

その他の股関節外転筋については、こちらに詳しくまとめています。

股関節の外転に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説

股関節内転筋のまとめ

股関節の内転は、少ない可動域の中にも様々な筋肉がその働きに関与しています。

股関節内転動作を単体で行うことは、日常生活動作の中にはありませんが、スポーツの中で分かりやすい動きとして、サッカーのインサイドキックがあります。

こうした直接的な動きだけに働いているかというとそうではなく、外転筋と同じく、歩行の際にも、股関節内・外方向の位置を制御する働きを持っています。

バランス療法では、股関節内外転に働く筋肉の緊張差を検査し、左右対称性に機能するように、手技を行います。

股関節内転筋が過度に緊張している場合、股関節の外転操法という手技を行いますが、その際に、内転筋の走行をイメージしながら、手技を行うと良いでしょう。