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股関節の外転に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説

股関節の外転運動には、中殿筋と小殿筋が主動作筋として作用します。

その他にも、股関節周囲筋群が補助的に働き、股関節の外転運動を起こしています。

このページでは、股関節の外転に作用する筋肉の種類と、その走行・支配神経から拮抗筋までを詳しく解説します。

また、同じ外転運動でも股関節の肢位によって働く筋肉が異なるので、ポジション別の主動作筋についても触れています。

股関節外転運動の概要

股関節は寛骨と大腿骨で構成される関節です。

関節の自由度は肩関節に次いで高く、その形状は臼状関節と呼ばれています。

股関節の外転可動域は、正常では約45°程度で、それ以上の運動に関しては体幹や骨盤の関節運動が伴います。

股関節の外転は、矢状軸・前額面上での運動です。

股関節の外転に作用する筋肉の一覧

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
中殿筋 腸骨稜 大腿骨大転子 上殿神経 L4 – S1
小殿筋 腸骨外側 大腿骨大転子 上殿神経 L4 – S1
大殿筋 腸骨・仙骨・尾骨 大腿骨殿筋粗面
腸脛靭帯
下殿神経 L5 – S2
大腿筋膜張筋 腸骨稜 脛骨外側顆 上殿神経 L4 – S1
縫工筋 上前腸骨棘 脛骨骨幹部内側 大腿神経 L2 – L4

股関節の外転に作用する筋肉は、上の表の通りです。

主な動作は中殿筋・小殿筋が収縮することで行い、その他の筋肉が補助的に作用しています。

ここで挙がっている筋肉は、解剖学的肢位からの外転に働く筋肉です。

それぞれの筋肉について、さらに詳しく見ていきましょう。

股関節外転の主動作筋

股関節外転の主動作筋は、中殿筋で次いで強い働きを持つのが小殿筋です。

2つの筋肉は、腸骨外側から起こり、大腿骨大転子に停止する筋肉で、股関節の外側を覆うように走行しています。

殿筋群としては、他にも大殿筋がありますが、大殿筋は股関節の後面を覆っている筋肉なので、伸展が主な働きで外転に関しては補助的に作用します。

中殿筋の起始・停止・支配神経

中殿筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
中殿筋 腸骨稜 大腿骨大転子 上殿神経 L4 – S1

中殿筋は、股関節の外転に最も強く作用する筋肉です。

腸骨稜・前後殿筋線の間から起こり、大腿骨大転子に収束して停止します。

殿筋群としては、大殿筋より小さく深層を走行し、小殿筋より表層に位置する筋肉です。

中殿筋は、股関節の外側を覆うように走行することから、全体が収縮すると股関節の外転に作用します。

外転作用は部分的なものではなく、股関節がどの肢位にあっても機能します。

中殿筋は、歩行時の側方への動揺性を外側から安定させるという重要な役割も持っています。

全体としての機能は股関節の外転ですが、補助的に以下の作用も持っています。

  • 前部繊維 : 股関節の屈曲と内旋
  • 後部繊維 : 股関節の伸展と外旋

主動作・補助的な作用を合わせると、股関節の内転以外の全ての動きに関与する筋肉です。

小殿筋の起始・停止・支配神経

小殿筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
小殿筋 腸骨外側 大腿骨大転子 上殿神経 L4 – S1

小殿筋は、殿筋群の中で最も小さい筋肉で、中殿筋の深層を走行する筋肉です。

中殿筋の直下で、腸骨外側面から起こり、下方に走行し大腿骨大転子に停止します。

形状も中殿筋と似た扇状をしていて、似た作用を持つ筋肉であることが分かります。

中殿筋よりも、作用する力は少ないですが、中殿筋と共に股関節の外転に作用します。

小さい筋肉であるため、他の作用も少なく、外転以外には股関節の内旋に補助的に作用します。

股関節外転の補助筋

股関節外転の主な動作は、中殿筋と小殿筋が収縮することで行われ、その他に股関節の外側を走行する筋肉が、外転運動をサポートします。

大殿筋の起始・停止・支配神経

大殿筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
大殿筋 腸骨・仙骨・尾骨 大腿骨殿筋粗面
腸脛靭帯
下殿神経 L5 – S2

大殿筋は、殿筋群の中で最も大きく、表層を走行する筋肉です。

骨盤全体から起こり、股関節を覆うように走行していて、股関節の伸展に強力に働く筋肉です。

全体の働きとしては伸展ですが、腸骨部から起こる上部繊維は股関節の外転に補助的に作用します。

反対に、下部繊維は股関節内転の補助筋として働きます。

大腿筋膜張筋の起始・停止・支配神経

大腿筋膜張筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
大腿筋膜張筋 腸骨稜 脛骨外側顆 上殿神経 L4 – S1

大腿筋膜張筋は、上前腸骨棘や腸骨稜から起こり、腸脛靭帯を介して脛骨に停止する筋肉です。

収縮することで、腸脛靭帯を緊張させる小さい筋肉で、股関節の外転に補助的に働きます。

後述しますが、股関節屈曲位の外転では解剖学的肢位よりも強く力を発揮します。

大腿筋膜張筋の機能は諸説ありますが、その他にも股関節の屈曲・内旋・外旋に作用すると言われています。

縫工筋の起始・停止・支配神経

縫工筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
縫工筋 上前腸骨棘 脛骨骨幹部内側 大腿神経 L2 – L4

縫工筋は、上前腸骨棘から起こり、下内方に走行し、脛骨骨幹部内側に停止する細い筋肉です。

股関節と膝関節をまたぐ2関節筋であるため、膝関節の屈曲や内旋にも作用しますが、股関節では屈曲・外転・外旋に作用します。

股関節屈曲位での外転

解剖学的肢位での股関節外転には、これまで解説した通り中殿筋と小殿筋が作用します。

しかし、股関節を屈曲させた状態での外転では、大腿筋膜張筋が力を発揮し、中殿筋と小殿筋がそれをサポートする形になります。

肩関節にも言えることですが、股関節は運動軸が多く、可動域が広いため、実際の関節運動は複合的になり、角度によって様々な筋が同時に収縮して関節運動を起こしています。

股関節外転の拮抗筋

股関節外転の拮抗筋には、股関節の内転に強力に作用する内転筋群があります。

股関節内転筋群が緊張していると、股関節外転運動に対して抵抗し、十分な可動域が得られなくなります。

股関節内転筋群の起始・停止・支配神経

股関節内転筋群

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
大内転筋 坐骨・恥骨 大腿骨内側 閉鎖神経 L2 – L4
長内転筋 恥骨 大腿骨内側 閉鎖神経 L2 – L4
短内転筋 恥骨 大腿骨内側 閉鎖神経 L2 – L4

股関節内転筋群は、上の表の通り大内転・長内転筋・短内転筋で構成されている筋肉群です。

大内転筋の一部は、坐骨結節から起こり、それ以外は全て恥骨から起こります。

3つの筋肉は、下内方に向かって走行し、大腿骨の内側をほとんど覆う形で停止します。

名前の通り、股関節内転の大部分を担う筋肉で、その他にも股関節屈曲の補助筋として作用します。

股関節外転筋のまとめ

股関節外転運動は、中殿筋・小殿筋をはじめ、大腿筋膜張筋などの筋肉で行われます。

日常生活動作の中では、股関節を単体で外転させるという場面が少ないので、動作時に股関節を安定させる際に活動しています。

バランス療法の手技の中では、内転操法を行う際に股関節外転筋の弛緩を狙って手技を行います。

バランス療法の検査では、股関節外旋可動域をテストする際に、反対側の下肢に足をかけて行いますが、その際外転筋の緊張が強いと、股関節外側に痛みを訴えたり、うまく足をかけられなかったりすることがあります。

そうした場合は、股関節外転筋の走行をイメージしながら、筋緊張のバランスを判断すると良いでしょう。