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肩関節の外転に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説

肩関節の外転運動には、三角筋中部繊維と棘上筋が主動作筋として作用します。

肩関節外転運動は、この2つの筋肉だけで行いますが、肩関節屈曲位から行う水平外転には、三角筋の他にも棘下筋や小円筋などが補助的に作用して運動を行います。

このページでは、肩関節の外転に作用する筋肉の種類と、その走行・支配神経から拮抗筋までを詳しく解説します。

肩関節外転運動の概要

肩関節は、肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。

これは狭義の肩関節と呼ばれていて、肩関節の外転運動に関わる骨でみると、肩甲骨と上腕骨の他にも、鎖骨・胸骨・胸郭がその運動に関わっています。

これら全てを合わせて広義の肩関節と呼ばれています。

肩関節の外転には、解剖学的基本肢位から行う外転運動と、肩関節屈曲位から行う水平外転の2種類の運動があります。

肩関節は広い運動軸を持つ関節で、外転運動は側方挙上とも呼ばれています。

外転運動は、肩関節の運動の中でも痛みを訴える例が多い動きでもありますが、正常であれば180°の可動域を持っています。

水平運動に関しては、肩関節屈曲位から90°の可動域を持っています。

肩関節の外転運動は、矢状軸・前額面上での運動で、水平外転は前額軸・水平面上での運動です。

肩関節の外転に作用する筋肉の一覧

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
三角筋中部 肩甲骨外側 上腕骨骨幹部
三角筋粗面
腋窩神経 C5 – C6
棘上筋 肩甲骨棘上窩 上腕骨大結節 肩甲上神経 C5 – C6
三角筋後部
(水平外転)
肩甲骨肩甲棘 上腕骨骨幹部
三角筋粗面
腋窩神経 C5 – C6
棘下筋
(水平外転)
肩甲骨棘下窩 上腕骨大結節 肩甲上神経 C5 – C6
小円筋
(水平外転)
肩甲骨外側縁 上腕骨大結節 腋窩神経 C5 – C6

肩関節の外転に作用する筋肉は、上の表の通りです。

ここでは肩関節の純粋な外転運動に作用する筋肉と、肩関節屈曲位からの水平外転に作用する筋肉をまとめて記載しています。

肩関節の外転運動時に、三角筋が収縮する様子は、自分で触ってみてもすぐに確認できます。

肩関節外転の主動作筋

肩関節の外転運動は、三角筋・棘上筋が主に働いて行われます。

その中でも筋腹が大きい三角筋中部繊維は、肩関節の外転に強力に作用します。

ここでの主動作筋は、解剖学的肢位からの外転運動に働く筋肉です。

水平外転時に作用する筋肉については、後半で記載します。

三角筋中部繊維の起始・停止・支配神経

三角筋中部繊維

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
三角筋中部 肩甲骨外側 上腕骨骨幹部
三角筋粗面
腋窩神経 C5 – C6

三角筋中部繊維は、肩甲骨の肩峰や外側縁から起こり、下方に向かって走行し、前部・後部繊維とともに上腕骨の三角筋粗面に停止します。

支配神経は、腋窩神経です。

三角筋は前方・側方・後方から肩関節を覆うように付着している筋肉で、肩関節のあらゆる運動に関与しています。

その中でも、側方部分を担う中部繊維は、肩関節外転運動を主な機能として持っています。

肩関節の外転運動に作用するのは中部繊維のみですが、肩関節の外転運動の際には、前部・後部繊維が前後から肩関節の位置を固定し、外転運動の軌道を安定させる働きをしています。

三角筋は表層を走行する筋肉なので、上腕の外側を触れながら、肩関節の外転運動をしてみると、収縮が簡単に確認できます。

棘上筋の起始・停止・支配神経

棘上筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
棘上筋 肩甲骨棘上窩 上腕骨大結節 肩甲上神経 C5 – C6

棘上筋は、肩甲骨の棘上窩から起こり、外下方に走行し、上腕骨大結節や肩関節の関節包に停止します。

支配神経は肩甲上神経です。

棘上筋は、三角筋中部繊維とともに、肩関節の外転に作用します。

その他にも、肩関節の外旋運動にも作用します。

棘上筋は、棘下筋・肩甲下筋・小円筋と共に回旋筋腱板(ローテーターカフ)を作る筋肉としても知られていて、他の筋肉と合わせて肩関節を安定させる働きも担っています。

肩関節水平外転に作用する筋肉

肩関節水平外転は、肩関節の純粋な外転(側方挙上)とは異なる動きなので、当然作用する筋肉も異なります。

肩関節の水平外転は、肩関節を90°屈曲させた位置から行う外転運動のことで、三角筋後部繊維が作用して行います。

その他にも、棘下筋や小円筋が補助的に水平外転運動に働きます。

三角筋後部繊維の起始・停止・支配神経

三角筋後部

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
三角筋後部 肩甲骨肩甲棘 上腕骨骨幹部
三角筋粗面
腋窩神経 C5 – C6

三角筋後部繊維は、肩甲骨の肩甲棘後縁から起こり、外下方に走行し、前部・中部繊維と共に上腕骨三角筋粗面に停止します。

支配神経は腋窩神経です。

三角筋後部繊維は、肩関節水平外転の主動作筋で、解剖学的肢位では、肩関節の伸展や外旋に作用します。

棘下筋の起始・停止・支配神経

 

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
棘下筋 肩甲骨棘下窩 上腕骨大結節 肩甲上神経 C5 – C6

棘下筋は、肩甲骨の棘下窩から起こり、外方に向かって走行し、上腕骨大結節に停止します。

支配神経は、棘上筋と同じく肩甲上神経です。

肩甲骨の肩甲棘から下の大部分を覆っている幅の広い筋肉で、肩関節水平外転には補助的に作用します。

主な働きは肩関節の外旋と、棘上筋・肩甲下筋・小円筋と共に回旋筋腱板を形成し、肩関節の安定させることにあります。

小円筋の起始・停止・支配神経

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
小円筋 肩甲骨外側縁 上腕骨大結節 腋窩神経 C5 – C6

小円筋は、肩甲骨の外側縁下部から起こり、外上方に向かって走行し、上腕骨大結節に停止する筋肉です。

支配神経は、腋窩神経です。

主な働きは外旋と、棘上筋・棘下筋・肩甲下筋と共に回旋筋腱板を形成して、肩関節を安定させることです。

棘下筋の真下をほぼ平行に走行する筋肉で、働きは棘下筋に似ていますが、比較するととても小さな筋肉です。

肩関節外転の拮抗筋

肩関節外転運動の拮抗筋は、肩関節内転の主動作筋である、大胸筋や広背筋です。

どちらも強力な内転作用を持っていて、肩関節外転運動時にこれらの筋が伸張しなければ、十分な外転可動域は得られません。

大胸筋の起始・停止・支配神経

大胸筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
大胸筋 鎖骨・胸骨・肋骨 上腕骨結節間溝 外側胸筋神経
内側胸筋神経
C5 – C6
C6 – T1

大胸筋は、鎖骨部・胸肋部と走行が分かれた筋肉で、胸部の中心から外側に向けて走行し、上腕骨結節間溝に集約して停止します。

大胸筋は、鎖骨部・胸肋部とそれぞれ異なる働きを持ってはいますが、全体の働きとして肩関節の内転があります。

前胸部を形成する強力な筋肉なので、肩関節外転の拮抗筋としてはもちろん、肩関節水平外転の拮抗筋としても挙げられます。

広背筋の起始・停止・支配神経

広背筋

筋肉名 起始 停止 支配神経 Lv
広背筋 第6胸椎から第5腰椎
腸骨稜
上腕骨小結節稜 胸背神経 C6 – C8

広背筋は、第6から第5腰椎・腸骨稜という広い起始を持つ筋肉で、外上方に走行し、上腕骨小結節稜に停止します。

広背筋の主な作用としては、肩関節の伸展ですが、肩関節の内転にも作用します。

肩関節の外転運動は、通常なら180°の可動域がありますが、大胸筋や広背筋の緊張が強く、伸張ができなければ外転運動を妨げることになります。

肩関節の内転に作用する筋肉の種類とその起始・停止・支配神経・拮抗筋を解説

肩関節の外転に作用する筋肉のまとめ

肩関節の外転運動には、三角筋中部繊維と棘上筋が主に働きます。

上肢を少ない筋肉で側方挙上させるため、大きな筋腹を持つ三角筋中部繊維が収縮して、棘上筋と共に外転運動を起こしています。

水平外転では作用する筋肉が三角筋後部繊維と棘下筋・小円筋と変化して、肩関節の自由度の高い運動に対応しています。

肩関節の外転運動は、屈曲運動に比べて可動域制限や痛みの訴えが多い動きでもあるので、関連する筋肉を覚えてイメージしておくと良いでしょう。

バランス療法では、肩関節の検査で外転筋・内転筋の緊張差を左右で比較します。

肩関節屈曲検査を行った際に、肩関節の屈曲軌道上から内側に引きつけられる側を外転筋の緊張側、外側に離れていく側を内転筋の緊張側としています。

手技の中にも、肩関節にアプローチする手技がありますが、外転運動に痛みがある場合は、患部を無理に動かさず、周囲の筋肉から調整して、左右の差を整えていきます。

外転筋の緊張側は、肩関節の固定が不安定で操作がしにくいですが、関節の動きや筋の走行をイメージしながら、慎重に動かしていきましょう。