2017年5月のセミナーは肩甲挙筋を調整する手技をテーマに行いました
2017年5月に大阪上本町で開催したバランス療法の手技セミナーは、肩甲挙筋の調整という手技をテーマに行いました。
肩甲挙筋は肩甲骨の挙上に作用する筋肉で、頚・肩部周囲に症状を訴える方は、この筋肉の緊張が左右で大きく異なるという場合が少なくありません。
また、肩甲骨と頚椎に付着しているため、頚部の運動はもちろん頭位にも強く関与する筋肉です。
今回は柔道整復師・鍼灸師の方にセミナーの見学をして頂き、受講生にとっても良い刺激になったのではないかと思います。
肩甲挙筋の緊張差を左右で比較する
肩甲挙筋はよく過度な緊張を起こして、頚部痛や肩こりの原因となると言われていますが、バランス療法では緊張の強い側と相対的に弛緩している側があると考えています。
そのため、両方の肩甲挙筋の弛緩を狙ういうよりも、過度な緊張を起こしている側を弛緩させ、そうでない側は働きを促すことを目的に手技を組み立てます。
バランス療法ではこの手技に限ったことではありませんが、まずは肩甲挙筋の緊張差を左右で比較することから始めます。
肩甲挙筋の緊張を触診と関節運動から見る
バランス療法のセミナーでは、肩甲挙筋の左右の緊張を調べる方法として、肩甲骨の触診と頚部の関節運動を見ることにしています。
肩甲挙筋の主な作用は肩甲骨を挙上させることですが、これには僧帽筋を始め他の筋肉の影響が考えられるため、1つのことで判断することは避けて、複合的に緊張側を考察します。
具体的なポイントは以下の通りです。
- 胸椎2 – 3から肩甲骨上角の距離
- 肩甲骨下角の位置
- 頚部の左右回旋
- 頚部の左右側屈
肩甲挙筋は緊張すると肩甲骨を内上方に引き上げる作用があるので、左右の肩甲骨の位置関係を触診すると、肩甲挙筋の緊張側は相対的に上がっています。
また、胸椎2-3間から上角の距離も、緊張側が狭くなっている場合が多いです。
さらに、頚部の左右回旋と側屈から肩甲挙筋の緊張側を判断します。
緊張した肩甲挙筋を弛緩させるための手技を行う
左右の肩甲挙筋の緊張差が判別できれば、今回のセミナーのテーマである肩甲挙筋を弛緩させるための手技を行います。
術者は、仰臥位の受け手に対して肩甲挙筋の緊張側に座ります。
次に手技がかけやすい様に、受け手の手関節部を持って肘を伸展させます。
この時上肢に緊張が起こらないように一方の手で軽く把持しておきます。
もう一方の手で受け手の背部から肩甲骨上角を触診し、上角に付着している肩甲挙筋を探します。
肩甲挙筋の場所が把握できたら、呼吸のタイミングを見ながら、肩甲挙筋の腱を弾く様に刺激を与えます。
4 – 5回繰り返したあと、受け手の手を元に戻し手技を終えます。
手技のあとは再検査をして筋バランスの変化を見る
肩甲挙筋を弛緩させるための手技を行ったあとは、それが筋にどの様な変化を与えたか、しっかりと確認します。
最初と同じ様に、胸椎2-3と肩甲骨上角の間や肩甲骨下角を触診し、肩甲骨の位置の変化を確認します。
また、頚部の回旋と側屈運動を確認し、左右で同じ可動域になっているかを確認します。
臨床では、頚部の回旋・側屈に痛みを訴える患者さんも多く、疼痛が回旋の制限となっていること少なくありません。
こういった場合でも、肩甲挙筋の緊張がうまく弛緩していると、運動時の疼痛は軽減し、可動域も手技の前より大きくなります。
ただ、肩甲挙筋の手技も他の手技と同様に、目的は”全身的な筋の働きに左右差をなくすこと”です。
肩甲挙筋の手技を行ったあとに、肩甲挙筋の働きを確認するのも良いですが、肩関節の屈曲・伸展の検査から、左右の筋肉の緊張差がどの様に変化したかを確認することも可能です。
この手技は、疼痛が出ている部位に直接手技をかける場合も多いのですが、局所にとらわれない様に注意しましょう。
肩甲挙筋を調整する手技のまとめ
緊張した肩甲挙筋を弛緩させる手技は、頚部の回旋制限を始め、頚・肩部に問題を抱える身体にはとても有効な手技です。
前述した様に、最終的には全身のバランスを整える目的で行うのですが、複数の手技の中にポイントで用いると良いでしょう。
初めてこの手技を学んだ方は、肩甲挙筋の場所を触診することはできるのですが、なかなか腱を弾くことができないということが多いです。
うまく腱を弾くには、とにかく反復が必要なので、積極的に練習する様にしましょう。
一度感覚をつかめば、どんな身体に手技をかける場合でも比較的早く肩甲挙筋を見つけることができます。