2026年8月のセミナーBasicコース – 仰臥位の牽引
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今月のBasicコースでは、下肢の手技でバランス療法の代表的な手技である「仰臥位の牽引」をテーマに開催しました。
今月はAdvanceコースはなく、Basicコースのみの開催です。
仰臥位の牽引とは
仰臥位の牽引は、股関節の伸展に作用する筋肉を弛緩させ、左右の重心機能を整える目的で行う手技です。
下肢の手技ですが、単に膝の痛みや股関節の痛みといった症状だけでなく、重心を整えることで全体のバランスが整い、身体そのものが機能しやすい状態にする目的で行います。
手技の手順
- 検査で手技をかける側を判別する
- 片方の手で足関節を持ち下肢を持ち上げる
- 股関節を内転または外転位に操作する
- 呼吸に合わせて牽引をかける
膝関節と股関節の検査

バランス療法では、すべての手技を行う前に必ず検査によって左右差を比較し、どちらの下肢にどのような角度で手技をかけるかを決定します。
今回の仰臥位の牽引では、まず膝関節の屈曲可動域や抵抗感を左右で比較する膝関節検査を行います。
動きが柔らかく膝関節の屈曲可動域が大きい側を、手技をかける下肢として判断します。
また、膝関節検査の可動が少ない側は大腿神経系の機能が強く働いた重心側として捉え、今回手技をかける側は非重心側として捉えます。
次に、股関節検査を行い、手技をかける際の下肢の角度を決定します。
股関節の外旋可動域が狭い場合は外転位、逆に柔らかく可動域が広い場合は内転位で手技をかけます。
仰臥位の牽引の目的
仰臥位の牽引は、坐骨神経系の筋肉をメインに、下殿神経や上殿神経支配の筋肉など、股関節から大腿部周辺の筋群へアプローチする手技です。
単に腰痛や膝痛を和らげる施術として局所の症状を追うのではなく、身体の土台である骨盤と下肢を安定させ、人間が本来持っている機能を取り戻すことが今回の手技の目的です。
住宅の基礎工事や、自動車の足回りが不安定では全体が歪んでしまうのと同様に、人間の足腰が中心軸に正しく機能していないと、運動生理学的に大きな影響を及ぼします。
その影響が最も顕著に現れるのが呼吸運動です。
骨盤から下が不安定になると、頭部を支えるために無意識のうちに胸郭や頸部に余計な筋緊張が生まれます。
呼吸筋が多く存在する胸郭に余計な緊張が生じると、安静時や睡眠時であっても理想的な呼吸が行えず、エネルギー消費の多い非効率な呼吸を強いられ、睡眠時の疲労回復や成長ホルモンの分泌にまで悪影響を及ぼすことになります。
呼吸を含めた全身の運動機能は、人間の構造のベースである骨盤と下肢がしっかり機能して初めて成り立ちます。
今回の手技に限らず、臨床においては、この手技がどの痛みに効くかという『症状だけ』にとらわれず、より本質的な視点を持つことが重要です。
今回のセミナーで伝えた手技のポイント

新しいフォームとこれまでのフォームの使い分け
バランス療法セミナーでは、これまで何度も仰臥位の牽引をテーマにしたセミナーを開催していますが、左右の肩峰を結んだラインを基準としたF-LAPの考え方で、全ての手技のフォームを見直しています。
今回の仰臥位の牽引も、新しいフォームをメインにお伝えしましたが、他の手技と違って、これまでの牽引のフォームを使うこともあるという臨床的な使い分けの話からセミナーがスタートしました。
F-LAPの考えを取り入れた新フォームでは、下肢のポジション上どうしても受け手の股関節の屈曲角度が大きくなります。
他の手技では、高さが出ても特に問題はないのですが、股関節屈曲には『ラセーグ徴候』のリスクがあります。
腰椎ヘルニアなどで、坐骨神経系に痛みが出やすい体に施術する場合は、できるだけ股関節の屈曲をさせないように、低く牽引をかけることがあります。
また事前に行う膝関節検査の左右差が大きい場合は、ハムストリングスの緊張が強く表れているということになるので、施術の前半は高さを出さずに旧フォームの牽引からスタートします。
手技の際の安定感や、ハムストリングスへの刺激量は新フォームの方が得やすいので、通常は新フォームを使っていくということをお伝えしました。
術者のポジションとライン取り
仰臥位の下肢の牽引は、牽引を行う前に術者が受け手に対してどの方向を向いているか?のポジション取りが重要です。
- 内転位での牽引 : 下肢と同側の肩に向く
- 外転位での牽引 : 下肢と反対側の肩に向く
術者のFrontの向きが適切でないと、牽引をした時に下肢を捻ってしまうことになります。
また、旧フォームでは術者の正中と下肢を中心に合わせ、それを保ったまま牽引を行っていました。
F-LAPの考え方を取り入れてからは、牽引前の下肢の位置を0.5から1正中からずらし、牽引を行った結果術者の中心に下肢が位置するようになります。
また、受け手の外転と共に下肢が外旋していく場合は、術者の骨盤や肩のラインも下肢の外旋に合わせて倒すことで、斜めの作業ラインを合わせて牽引すると、より安定した牽引が行えます。
術者の脱力
今回の下肢の牽引に限らず、バランス療法の手技は、術者の身体の使い方に最新の注意を払い、下肢や体幹の筋肉を使って全体を安定させることで、結果的に手の力が抜け、受け手に柔らかい刺激で効果の高い手技を行うことができます。
牽引は股関節という大きな関節にアプローチするので、他の手技に比べて、さらに術者側の力が必要な手技です。
ですが、Frontを合わせ、作業ラインも正しい位置で牽引を行い、受け手の呼吸が深くなってくると、自然と術者の力も抜けていき、お互いにリラックスした状態で質の高い手技の刺激を伝えることができるようになります。
感覚的な部分ですが、施術を行う上で非常に重要なヒントになったと思います。
今回の手技のまとめ
仰臥位の牽引は、一見すると単に足を引っ張るだけの単純な手技に見えるかもしれません。
しかし、解剖学的な狙う神経系と筋肉の理解、そして術者の身体の使い方や受け手の呼吸との調和があって初めて、ハムストリングスや股関節伸展筋群へ純粋な弛緩刺激を与えることができます。
特に臨床では、重心バランスを整えたり、その身体の重心を評価したりする上でとても有効的な手技です。
形だけを真似するのではなく、術者と受け手双方が脱力し、3関節が綺麗に連動する感覚を何度も練習して身につけていきましょう。
人の構造のベースである骨盤や下肢をコントロールし、全体のバランスを整えるという視点を持つことで、患者さんに対しても痛みの根本原因は何か、本当の健康とは何かをブレずに説明できるようになります。
下肢の牽引は、うまくかけることができれば、1回の手技で身体全体を大きく変化させることができる手技です。
下肢の動きが整うことで、全身的にどんな変化が起こるか?ということから、全身がつながっていて、バランスを整えることがどれだけ重要かを伝えるきっかけになる手技です。
しっかりと効果を出すには難しいですが、しっかり練習していきましょう。
