日々の施術録や身体の使い方について書いています

風邪の後に咳だけが長引く40代女性に施術しました

元々施術予定ではなく、歯科セミナーの症例相談でお会いする予定だった40代の女医の先生を施術した症例です。

10日前に風邪をひき、発熱と咳が酷く、熱は3日間で下がったものの咳が全く治らず、この数日間は咳のせいでほぼ睡眠が出来きていない状態だったそうです。

病院の薬もあまり効かず、あまりにも苦しそうだったので急遽施術をすることにしました。

呼吸を確保するため姿勢が悪くなる

人は身体のどこかが調子が悪くなると姿勢は悪くなります。咳は呼吸がし辛くなるため特に姿勢が悪くなります。

先生の顔色は悪く、血の気がない状態です。誰の目から見ても分かるほど体調が悪そうです。身体はまっすぐの伸ばせず、前傾姿勢で呼吸をするのがやっとの状態です。

椅子に座って待っている間も背中を丸め、15〜20秒間隔で咳き込み大変苦しそうでした。

先月セミナーでお会いした時より痩せている様にも感じ、ここ数日食事もまともに取れていないのではと感じました。

施術するためソファーからマットまで歩いている姿もヨロヨロし、今にも転倒しそうな感じを受けました。

手足の動きを検査する

身体の歪みの状態を検査するためにうつ伏せや仰向けになってもらうと数秒で咳込んでしまいます。特に仰向けになると、胸郭が強制的に広げられるため咳が止まらずかなり苦しそうでした。

手足の検査で左の股関節と右の肩関節は反対側と比べ遠心性方向に働き、身体全体に捻れを作り、理想的な呼吸をする上で重要な胸郭を広げるための運動機能を低下させるには充分な左右差がありました。

特に胸郭に大きな影響を与える上肢の運動が著しく低下し、脱力下における肩関節屈曲運動は左右共に大きな運動制限がありました。

通常のテクニックが出来なくても・・・

通常バランス療法は仰臥位又は伏臥位で施術します。

理由は例えば立位や座位だと身体の筋肉が重力に拮抗するため完全な脱力出来ません。

全身の筋肉にアプローチしたいバランス療法にとって、筋緊張が可能な限りない状態で施術することが理想的です。よって、一番筋緊張が起きにくい仰臥位又は伏臥位で施術します。

しかし今回は咳込むため、この段階では横に寝た状態で施術することは出来ませんでした。

寝た状態より正座の方が咳の回数が少なかったので、この様な時は座位で行うテクニックを選択します。

座位のテクニック

正座が出来る患者さんは正座で、正座が出来ない患者さんはイスに座って施術します。今回は正座で施術しました。

検査から右の上部僧帽筋が緊張し左が弛緩していると確認できたので、左右の上部僧帽筋の緊張差を揃えるテクニックを選択しました。

施術中は胸郭の動きに細心の注意を払います。理由は、僧帽筋も吸気を補助する筋肉だからです。筋緊張の検査が正確でも直接影響を与える筋肉へ刺激をする場合、良くも悪くも大きく変化する可能性があります。施術をしながら胸郭が広がったら刺激を継続し、咳込んだり胸郭の動きに制限があれば中止します。

検査上間違っていなくても、筋肉が刺激に対して過敏な場合は効果的な変化が出ません。

7〜8呼吸くらいしているうちに、正座でも丸まっていた背中が伸びてきて胸郭の広がりが確認することができました。

 

次に求心性方向に働いている左上肢と左大胸筋と左広背筋の過緊張を弛緩させ、上肢や体幹を左右同じ筋緊張にし脊柱や寛骨や頭蓋骨、肩甲骨や鎖骨など呼吸器に関係する筋骨格の安定を目的としたテクニックを選択しました。

先生の左肩関節内転位・肘屈曲位にして肩関節の屈曲と伸展を繰り返しを呼吸に合わせて7〜8呼吸しました。上記と同じく胸郭の動きを注意します。

この時かなり大きく変化し、先生の顔がどんどん笑い始めました。呼吸が深くなっていることを自覚したようでした。

人は痛みや痺れ、呼吸など機能低下を感じている時は表情が曇りがちです。眉間にしわがあったり、口角が下がったり、目ヂカラがありません。しかし、それが少しでも変化すると明らかに表情が変化し笑顔になります。

これも重要な観察ポイントです。

通常のテクニックへ切り替え

この状態であれば伏臥位のテクニックなら可能と判断し、通常のテクニックへ切り替えます。

伏臥位になっても咳の回数は1分間に数回に減少。その咳も酷い咳ではなく少し喉がイガイガして咳が出る程度まで改善していました。

上肢の検査で左上肢が求心性方向に働いていることが確認済みのため、左の広背筋が右の広背筋より緊張していることが解剖学的にも分かります。

左右の上肢の運動機能を同じにするために3種類のテクニックを選択しました。

  • 主に右広背筋を緊張させるテクニック
  • 主に左広背筋を弛緩させるテクニック
  • 腰椎4番に刺激を入れるテクニック

この時も呼吸の状態を確認しながら行います。

上記のテクニックを繰り返すうちに増す増す深い呼吸となり、施術中も咳は全く出ませんでした。

一度確認のため、仰臥位になってもらい3分ほど咳が出ない状態に改善。また伏臥位で同じテクニックを繰り返しを3回ほど繰り返しました。

回数が増える度に咳が治まり、顔色も少し赤みを帯びて元気そうな表情に変わりました。この辺りから眠気が出てき始めました。通常の呼吸が出来る事で自律神経も安定し始めたと考えられます。

トータル20分程施術しましたが、正座やイスなどの座位では咳はほぼ治り、立位での姿勢も歩き方もスピードも格段に良くなったことを私もそして先生も理解する事が出来ました。

広背筋と呼吸

今回伏臥位のテクニックでは主に広背筋の機能に重きを置きました。広背筋の左右差は検査で確認でき、筋が左右同じように機能していないということは、筋の安静時も起始部と停止部の位置に影響が出ていると言えます。

起始部はTh7〜12棘突起・腸骨稜・9〜12肋骨、停止部は上腕骨のため、呼吸する上で重要な胸椎や肋骨にも影響があると言えます。左右の広背筋に筋機能の差があれば、呼吸運動をするための構造(骨格)にも歪みが生じ、正常な呼吸運動が出来なくなります。

バランス療法は、呼吸運動に関する筋肉の機能差を検査で把握し、差のある筋肉を左右対称性に機能するように刺激を与え、本来の呼吸運動できる状態にすることを目的としています。

よって咳のための施術ではなく、咳が出て正常な呼吸運動ができない状態の呼吸器を自然な呼吸運動が出来る様にするための施術です。

ちなみに余談ですが、ネットで広背筋を検索すると広背筋は強制吸気筋と記載されていたり、強制呼気筋と反対の筋作用を記載されています。私の見解では、肋骨に起始部がある以上強制吸気筋として機能すると考えます。

施術後

施術後も咳がほぼ出なくなり、喋るだけで咳込んでいた状態から最後は普通に喋れる様になりました。

施術中の後半に聞いたのですが、今回の風邪の影響で右の副鼻腔と右の顎関節に痛みがあり、咳とその痛みが辛かったそうです。しかし、施術後は副鼻腔の痛みも顎関節の痛みも消失し満面の笑みで終えることが出来ました。

考察

咳のほとんどがケースは風邪から起こると思います。風邪薬等で咳などが改善すればそれは良い事だと思います。

しかし今回の様に、咳だけが治らず薬も効かない場合にどうすべきか?を考えなければいけません。

私は咳という症状は、風邪などの炎症から咳が出る以外にも筋骨格の異常もあると思っています。

呼吸器系の筋骨格の状態によっては、円滑な呼吸運動が出来ず咳が引き起こされると考えます。

胸部の筋肉が正しく機能させることで呼吸し易くなり、結果咳が改善することはよくあります。

しかし咳を改善を目的にするのではなく、胸部を含めた身体全体の筋骨格を改善する事が目的です。

その結果、症状の改善が期待できると考えます。

実際に今回も、咳のための施術や副鼻腔の痛みや顎関節の痛みを改善するための施術は行っていません。

身体の機能が最大限引き出せる状態に施術しただけです。しかし、人間は左右対称性に筋肉が機能すると身体はとても効率よく機能してくれるようになっています。今回はそれを実感できる良いケースでした。