日々の施術録や身体の使い方について書いています

痙性斜頸に苦しむ40代女性の施術報告

40代女性の痙性斜頸の患者さんです。まだ1回しか施術してしていませんが、まとめてみました。

5年前に発症した痙性斜頸

5年前に徐々に首が右を向き始め、初めは寝違えたか肩こりと思っていたそうです。

3年前から症状が悪化し、生活に支障が出るほど首が右を向くので病院を受診。近くの病院では原因が分からず、総合病院の神経内科を受診。初めて痙性斜頸と診断されたそうです。

過去に交通事故などで追突されたとか、スポーツなど激しい運動をしたことはないそうです。パートには出て荷物は持つものの、そこまで重たい物を持つ事もないようです。

3ヶ月に1回、ボトックス注射

神経内科での治療は、3ヶ月に1度ボトックス注射を打つそうです。注射後は右に向く角度が少しマシになり症状としては少し緩和するそうですが、注射後は頭を支えているのが辛いそうです。

推測ですが、頭を支える筋肉全体が弛緩することで頭が重たく感じるのだと思います。

効果は徐々に薄れ、3ヶ月後にまた注射をするという繰り返しだったようです。ボトックス注射は保険適応で1回7万円するそうです。一時的な症状の緩和で、根本的に改善することが出来ないと思い、2016年の1月を最後に注射はしていないとのことです。

患者さんの状況

患者さんに首の力を抜いてもらうと頭部が(正中矢状面を0度とし)約70度くらい右を向きます。

過去に施術した痙性斜頸の患者さんは、振戦やしびれといった症状がありましたが、今回の患者さんはそれほどありませんでした。

右を向いたままだと家事や仕事が出来なかったり、周りの視線が気になるため、無理やり左方向に向ける事で正中をキープしようとするため、右手で頭部を押さえる形になります。

あと1月以来ボトックス注射をしてない影響か、身体を起こしていると左の後頭部(後頭隆起の左)が押されるような痛みを伴い、それが最近特にひどくなっているそうです。

痙性斜頸と心理的ストレス

痙性斜頸は、現代医学ではまだこれといった原因が解明されていません。原因が解明されていない以上、これといった治療方法の確立にも至りません。

よって対症療法的に筋肉を弛緩させるボトックス注射などを使用するのだと思います。緊張した筋肉を無理に動かすリハビリなどは逆に症状を悪化する可能性もあるので、頭部の運動等も難しいはずです。

ただ過労や心理的ストレスなども原因の一つとされています。このストレスのコントロールは改善する上で重要な作業だと思います。

過去の患者さんも改善していた症状が精神的にストレスがかかると、突然悪化することがあり心理的な関与は大いにあると感じます。

バランス療法の理論から考える痙性斜頸

バランス療法は、その症状の改善を主な目的せず、全身の筋骨格を正しく機能させることを主の目的にしています。その結果、症状の改善が起こると考えます。

歪んだ身体を揃えることで、全身の筋肉は骨格は安定させ神経の働きも正常にさせる。しっかり筋骨格が機能すれば、随意筋はコントロール出来ると考えます。

痙性斜頸の頭部回旋の原因筋は、胸鎖乳突筋や僧帽筋と考えます。特に胸鎖乳突筋の筋緊張が不随的に頭部回旋させ、この筋の支配神経をコントロールしないと改善は見込めないと考えます。

そしてこのどちらの筋も脳神経XI(副神経)支配です。副神経は頸静脈孔から出て茎状突起と乳様突起の間を通り、胸鎖乳突筋の上部に、一部が僧帽筋上部(前縁)へと行き支配しています。

この頸部にある2つの筋肉以外にも頸神経支配の板状筋など筋肉と骨格と神経の環境をコントロールすることが、痙性斜頸の改善の近道だと思います。そのためには頭蓋骨(頭蓋底)や頚椎、さらに胸椎腰椎寛骨といった全身の骨格の安定とそれを支える全身の筋肉が左右対称に機能することが大変重要と考えます。

痙性斜頸の患者さんの歪み

痙性斜頸の歪みではなく、あくまでも今回の患者さんの歪みです。

静的検査 立位

通常はそれほど時間をかけずさらっと見る程度ですが、安静時の時点でかなりの差があるのでいつもより時間をかけ情報収集しました。

上記にもありますがリラックスした状態で立ってもらうと、頭部は自然に右側に70度程回旋します。

最初に患者さんに視線の位置を覚えてもらいました。施術後の視線を確認するためです。

次に正面から確認すると、左の胸鎖乳突筋だけ胸骨に付着する部分が過緊張を起こしピーンと張っているのが確認出来ました。そして肩甲骨の高さは左が高くなっています。

この時点で、左の胸鎖乳突筋のみが緊張し、右の胸鎖乳突筋は弛緩しているため右に頭部回旋していることがわかります。

そして患者さんが左後頭部が押されるような痛みがあると訴えています。これは左僧帽筋上部繊維のみが緊張し、立位時は肩甲骨が固定されやすく、それにより右僧帽筋より緊張状態にある左僧帽筋が頚椎や頭蓋骨を反対側の右側へと回旋させていると考えます。患者さんの自覚症状にも当てはまります。そして左肩も上がって見えます。

まずこれで、左の2つの筋肉の状況から見て左の副神経のみが不随的に機能していることが確認出来ました。

次に立位で両肩関節屈曲をしてもらいました。

理由は、左に偏った副神経支配のコントロールを一時的に解除するためです。

両方の肩関節を屈曲することで、僧帽筋上部繊維は左右同時に筋緊張を起こします。先ほどは肩甲骨が固定されていたため左の僧帽筋緊張が回旋を生みましたが、両方の肩甲骨が挙上し上方回旋をする=左右の僧帽筋の筋緊張も起こることになります。

よって両側の僧帽筋上部繊維が筋緊張すれば頭部回旋を起こしません。そして右の僧帽筋上部繊維を緊張させている右の副神経は、同側の胸鎖乳突筋も緊張させ、左右の胸鎖乳突筋の筋緊張はほぼ同じになります。

実際に肩関節を屈曲してもらうと、右に70度回旋して頭部が右に10度未満まで戻ってきました。もちろん腕を下せば、頭部はまた回旋しました。

私はこの時点で、頭蓋底や頚椎のポジションコントロールが出来れば改善してくれるはずと少し確信しました。

静的検査 仰臥位

仰臥位で寝てもらうと、身体全体が大きく左に傾いていました(足元から見て下肢が左に流れるという意味です)。患者さん自身は真っ直ぐ寝ているつもりですが、付き添いで来ていた旦那さんもびっくりする程くの字に曲がっていました。

鼻とオトガイから真っ直ぐ線を引くと、本来は踵と踵の間に線が来るはずですが、左の外果から外側に8センチぐらいに線がくる感じでした。あえて鼻やオトガイの線上に両足を揃えると、もの凄く違和感があるそうです。

バランス療法は、この事を非常に重要な事と捉えます。

現代医学では頭部や頸部の筋肉や神経に目が行き、全身の筋肉には着目しません。しかし頭部や頸部を含めた全身が真っ直ぐに出来ない状態になり、その状態を引き起こしているのは全身の左右の筋肉の緊張差なのです。この全身の筋肉の左右差を改善しない限り、頭部や頸部の筋や神経や骨格のコントロールは不可能だと思います。

他動運動による検査

患者さんの上肢や下肢の筋肉に筋収縮を起こさせないように検査し、安静時の筋緊張の差を確認しました。

上肢の検査では、静的検査で左の僧帽筋上部繊維緊張は確認済みなので予想していましたが、左の肩関節屈曲が優位に働き、右は肩関節の制限がありました。下肢の検査も股関節の外旋の差や重心の左右差があり、筋肉の状況がはっきりと分かり手技をする上ではとてもやり易くなりました。

施術とその後

施術のプランは、まず初めに重心をしっかり安定させるために左右の大腿神経系と坐骨神経系の筋肉のアプローチをし、その後僧帽筋上部繊維と肩甲挙筋の緊張差を揃える手技を主に行い、他動検査で全身の筋骨格がバランスよく機能しているのを確認しました。

途中、仰臥位で寝ている時に真っ直ぐ線が引けるように寝ていたので、少しは改善しているのではないかと思いながら患者さんに立ってもらいました。

立った瞬間、患者さんは笑顔で真っ直ぐ向いてると喜んでくれました。補正しなくても大丈夫と言ってくれたので私も嬉しかったです。ただ実際は、まだ5〜10度未満の回旋は残っていました。1回で0度にする事は不可能なので、初回はここで終了しました。

痙性斜頸のケースは心のケアが必要

過去の経験から、痙性斜頸は必ず心のケアが必要だと感じます。

私は心理学の勉強をした訳ではありませんが、とりあえず私が患者さんに対して感じたことやこれまでの痙性斜頸の患者さんの話などをして、どのように生活し、痙性斜頸とどう付き合って行くかの簡単なアドバイスをしました。そして今後も来院の度に話をし、その会話から少しずつ心理面のケアが出来ればと思います。

これまでの臨床経験から、私たちのような治療師が出来ない心のケアと、逆に私たちにしか出来ない心のケアが存在すると感じています。

信頼した人の言葉は、とても良い方向に導いてくれると思います。しかし、常に慎重に接しないといけないとも思います。

今後

まだ1回の施術です。次回来院までにどこまでキープできているか、完全に元に戻っているか、現時点では全く分かりません。

バランス療法は痙性斜頸に対して施術しているわけではありません。身体のバランスを揃える事が目的です。

筋肉は良くも悪くも癖付け出来ます。全身の筋肉に良い癖付けをして、日常生活の身体の使い方を指導する事で悪い癖を減らし、この痙性斜頸の改善にお手伝いが出来ればと思っています。