日々の施術録や身体の使い方について書いています

テニスのサーブ時の痛みを身体の使い方で改善した例

運動不足解消のため始めたテニスも2年が過ぎました。 こんな仕事をしているのでテニスをしていても、無意識に筋肉や関節のことを考えています。

テニスの主な動作として、上半身を中心としたサーブやストローク・ボレーなど実際にボールを打つ動作と、下半身を中心とした前後左右の移動やステップなどがあります。

打つまでの動作に、どの筋肉を使い関節はどのような運動をしているか。動作分析をしながら理に適った身体の使い方の考えをベースに、その考えをテニスに当てはめながらやっています。 考えている通りに身体を使いテニスが出来るなら、怪我の予防やパフォーマンス向上などが期待出来ると思っています。

身体の使い方を実践してもらうことに

ある日、担当のYコーチ(30代・男性)に、身体の使い方を意識してテニスしていることを伝えると、興味を持ってもらい詳しく聞かせて欲しいとのことで、普段考えている事をお話することになりました。

内容は5回に分けてたのですが、まとめると以下の様な内容です。

  • 無理無駄のない歩き方
  • 母趾と母趾球の使い方
  • 膝蓋骨の方向性
  • 抗重力筋の特徴
  • 肩と肘と手首の関節の連動の仕組み
  • 重力と重心と頭位と肩関節の関係

これら全てを当てはめたテニスの動きの身体の使い方をレクチャーしました。 誤解がないように書きますが、コーチにテニスをレクチャーした訳ではありません。テニスで行われる身体の動きを分析し、少しでも無駄な動きをなくす方法をレクチャーしただけです。

テニス用の動作分析をコーチにアウトプットできることは、間違っている箇所が確認でき修正出来るいい機会だと感じ、今考えていることを全て伝えました。 コーチはテニス初心者の僕の説明を最後まで耳を傾けてくれ感謝です。よくよく考えたら普通聞いてくれないですよね。

18年間苦しんだサーブ時の痛みが改善

この身体の使い方レクチャー終了時点では、コーチが右肘や右肩に痛みを抱えていると知りませんでした。

翌週レッスンの日に満面の笑みでコーチが近づいてきて、「20歳くらいに肘を痛めてサーブを打つ時20〜30%の力じゃないと打てなかったのに、身体の使い方を意識してサーブを打つと、18年間痛かった肘が100%の力で打っても痛くない」と喜んでくれました。

コーチの肘の痛みの経過は、10代前半からずっとテニスをして、20歳の頃練習のし過ぎで肘や肩を故障し、サーブを打つと肘から肩にかけて激痛が走り、肘に関しては手術まで勧められたそうです。

迷った末手術はせず、以降18年間痛みが出ないように軽くサーブを打つようになったそうです。 なので、コーチ本人も身体の使い方をほんの少し変えただけで、痛みが消えてびっくりしてました。 ちなみに今回施術は一切していません。レクチャーをしただけです。

そしてサーブのフォームのレクチャーなどもしていません。 ではなぜ施術もしていないのに肘の痛みが改善したのでしょうか?

身体が安定すると無理のない良い動きが生まれる

今回のYコーチがどうして、肘の痛みが改善したのか、私なりの考察をまとめてみました。

身体の使い方というと、フォームの矯正や、筋力トレーニングが頭に浮かぶと思いますが、今回の指導で変化していない箇所は…

1.レクチャー前後で筋力アップしていない。

よく聞く話で、「身体の鍛え方が足りないから痛みが出るんだ」ジムなどに通い、フリーウエイトやマシントレーニングで筋トレなどの筋力アップで痛みが改善した訳ではありません。そしてコーチは何年もロードバイクを趣味として行っており、下半身の筋力も一般男性よりはるかにあります。

2.サーブのフォームを変えていない。

みなさん周知の通り悪いフォームは故障の原因と言われています。その場合はフォームを変えなければなりません。しかし今回は一切フォームは変えていません。 故障した20歳の頃、コーチがどんなフォームだった分かりません。肘や肩を痛めてから18年の間で多少のフォーム改造もしたかもしれません。しかし現在のコーチのフォームが良いか悪いかといえば、テニス素人の判断ですがとても綺麗です。とても綺麗なサーブのフォームでも、20〜30%の力加減じゃないと痛くてサーブが打てなかったんです。

テニスの痛みが改善した背景は、筋力やフォームにはないということが考えられます。

反対に今回のレクチャー後大きく変わった箇所は2つです。

1.身体のかかる重力と身体の重心のバランスを取れるようになった。

重力に対して身体を支えるものが骨格筋と骨格で、身体のバランスが安定しているとされる前額面や矢状面に対して重心線が安定している時です。運動時は前額面では重心線は左右対称を保てないが、筋骨格が矢状面に対して正中に働いている状態が、関節運動を最大限に機能させる状態です。

運動時は頭位が重要と考えています。歩行時に頭位の位置がどこにあるかを確認してもらい、常に前方の足と後方の足の真ん中に頭位があるように出来るようになると、全ての運動時に頭位が安定することで全身も安定します。

2.バランスが取れるようになったため全身の筋肉の連動性がよくなった。

全身の筋肉の連動性とは、下半身が安定すると体幹の筋力が最大限のエネルギーを生み、下半身や体幹が安定した状態になると、上肢の筋肉は無理に力を入れなくても安定した力強いエネルギーを作る事が出来る状態です。

そして同側の肩関節、肘関節、手関節と股関節、膝関節、足関節の関節の状態が全身の連動性をさらに高めます。さらに対側との関節の関係性も連動性に大きく影響を受けます。

例えば、肩関節を屈曲させる筋肉を収縮させた時は、肘関節を伸展させる筋肉を収縮させ、手関節は掌屈させるよにする。逆に肩関節を伸展させる筋肉を収縮させた時は、肘関節は屈曲させ、手関節は背屈させることで上肢の連動性は高まります。

同じ事が下肢にも言えます。歩行時、左右の上肢が互い違いに動くことで、頭部や頚椎や胸椎を安定させています。下肢も左右が互い違いに動くことで寛骨や腰椎を安定させています。

施術をして身体を調えることでバランスはよくなるし、関節の可動性もよくなります。しかし、身体の使い方はまた別物です。身体の使い方を知る事でより身体は安定し筋肉が連動的に働き、その人が持っている最大限の筋肉のパフォーマンスが生むことができます。

しかし、連動的に動かさず部分的に動かすと体幹が水平面を保持できずバランスを崩し、四肢の各関節の高さや向きに多少のズレが生じ関節可動に制限が生まれます。

テニスの場合、このズレた状態でサーブやストロークなどをすると肘や肩に負担がかかったり、膝や腰など下半身にも影響が出ると考えています。

身体の使い方とは、運動時において筋肉と骨格が身体の中心軸に対して安定的に働いている状態で、四肢の連動にルールに従うことです。

良い身体の使い方とスポーツでの良いフォームとは違うと思っています。良いフォームはもちろん大切ですが、悪いフォームを良いフォームに改善しても痛みが無くなるとは限りません。

同じフォームでも身体の使い方を意識することが重要です。

重力に対してどこに重心を置くかとか、四肢の各関節や筋肉を上手く動かすことが出来るかで、無理なく無駄のないフォームになります。

他にも腓腹筋やハムストリングや大臀筋の使い方などで挙げればキリがありませんが、動きながら如何に重心線を安定させ、四肢の動きを利用したバランスの良いポジショニングが獲得できるかが重要です。

良いフォームは表面的であり、実際の筋肉や関節の使い方はまた別物です。

よってスポーツする上で、良いフォームと良い身体の使い方をマスターすれば、今回のように痛みが改善できると考えています。

テニスで肘が痛くなる理由と痛くならない理由

テニスをする全ての人が肘が痛くなるなら、この考え方では肘の痛みの問題解決は出来ません。しかし同じテニスをしている人の中で、肘が痛い人と痛くない人がいます。肘が痛くない人がいる以上、痛くならない何らかの理由があり、痛くなる人は痛くなる何らかの原因や理由がないとおかしな話しになります。 その全ての理由を解決してくれるのが、身体の使い方だと思います。

理想的な身体の使い方をすれば、テニスはもちろんあらゆるスポーツにも応用できますし、肩こりや腰痛など生活の中で起こる痛みなども解決できると思っています。 テニスのサーブを打つことがダメではなく、フォームがダメだったわけじゃなく(多少はフォームも変わったかもしれませんが、フォームの改造をした訳じゃないので)、筋が足りなかったわけじゃなく、身体の使い方を知らなかっただけです。

身体が最大限動ける使い方を、少し喋ってマスターしてもらっただけです。

人の身体って不思議だと思います。使い方一つで全く痛みが消えるんですから。