日々の施術録や身体の使い方について書いています

腰椎椎間板ヘルニアで左腰から下肢に痛みと痺れのある女性の施術録

2年前から運動不足解消と動作分析の参考にしようと週1回テニススクールに通っているのですが、 そこで同じクラスの女性から、「義姉が腰のヘルニアで苦しんでいて、大学病院では手術しかないと言われているので一度施術してほしい」と頼まれました。

基本的にどんな患者でも受け入れるのですが、今回のように手術の話が出ている患者さんに関しては少し慎重になり、事前にある程度の情報が欲しくなります。

これまでの経験上手術と言われたヘルニアの患者さんは、まず激痛で来院することが大変だったり、来院できてもマットの上にうつ伏せや仰向けに寝られなかったり、手足を動かそうとしても痛みが出て検査が出来なかったり、と実際に施術するまでが大変なケースが多いです。

その為、お義姉さんの状態を教えて欲しいとお願いすると、症状は、歩くと左下肢に強い痺れと痛みがあり普通には歩ない、じっとイスに座ってても腰が痛くなってくるということでした。

ただ懸念していた仰向けとうつ伏せができるということなので、これならなんとか施術ができるだろうと考えていました。

しかしなんとお義姉さんは岡山県に住んでいるそうで、岡山から大阪まで施術を受けに来るというのです。

僕なりに考えた結果、症状の程度ではなく岡山から大阪までの往復の移動を考えると遠過ぎるので体の負担を考えてお断りしました。

このような症状が1回2回の施術で改善できる訳ではないですし、ある程度の施術回数が必要と考えたら何度も来てもらうことは厳しいという判断をしたからです。

ですが、それでも本当に手術が必要かどうかだけでいいので1回どうしてもみて欲しい。とお願いされ施術することになりました。

どんな新患さんもワクワクすることが多いのですが、今回は正直心配事ばかりで、ちゃんと大阪まで来れるかな?帰りも無事に帰ってもらえるのかな?と心配ばかりが頭をよぎります。

新幹線に乗って岡山から大阪へ

施術当日、60代の女性の患者さんが息子さんの押す車椅子に乗られた状態で来られました。

開口一番「遠かったです。」それはそうですよね。

例え健康な人でも長距離の移動は疲れるものです。特に歩いても座ってても痛い人にとっては、移動は相当辛いものだったでしょう。

入口から問診を聞くテーブルまで5mの距離を歩いてもらったのですが、その歩いている姿はヘルニアの症状の1つ、坐骨神経痛の人の独特の歩き方で痛みの強さが見るだけでわかります。

そして問診をとっている間も座っているのが辛そうでした。

腰椎ヘルニアで感じている症状を具体的に聞く

現在どんな症状なのか?どこに痛みや痺れがあるのか?どんな動きをすれば痛みが強く出るか?できるだけ具体的に聞いていきます。

僕はこの質問をかなり重要視しています。この質問は解剖学的に分析するという意味もありますが、それ以上に患者さんの現状の痛みをシェアするというためです。

シェアというのは、患者さんの今の痛みを可能な限り理解したいという気持ちと、施術後に痛みが出ていたはずの動きを再現してもらい「良くなってる」と自覚してもらうためでもあります。

さらに問診は続き、いつからこの痛みが始まったのか?痛みが出始めてから今日まで酷くなっているか同じか?病院に行ったか?行った場合はどんな病名がついたか?どんな説明を受けたか?どんな治療(施術)を受けたか?

この質問は、慢性化した痛みかどうか?進行的に悪化して行っている痛みかどうか?を確認するために聞くことにしています。

病院を受診し検査したかどうかも、患者さんがインターネットで症状と当てはまるからと思い込んで、自分の病気はこれだと決めつけている患者さんもいます。病院の検査でないと分からない事も多くあります。過去に腰痛だと思いきや、脊柱の間に腫瘍がありこのような場合はMRIのような画像診断でないと分かりません。

あとこれまでどのような治療等を受けたかは、バランス療法を説明する上でこれまで受けた治療や施術とは違う観点だと説明するためです。

どんな仕事をしているか?(立ち仕事?座り仕事?重労働?)スポーツなどの趣味?過去の手術歴?などなど、患者さんの話の流れで聞く内容も変化しますが、基本的に痛みに関連する内容を聞きます。

今回の腰椎ヘルニアの症状をまとめると

問診から得た情報をまとめると

  • 歩行時痛が酷く10メートル歩くと立ち止まってしまう
  • 常に腰全体に痛みがある
  • 左臀部〜左大腿後面〜左下腿後面に痛みがある
  • 左臀部〜左大腿後面と左足部背面外側に痺れる

受診した某大学付属病院では保存療法を続けていたそうですが、改善が見られず徐々に悪化していたので手術を勧められたようです。

病院からの説明をしっかり覚えてない様でしたが、腰椎の4番5番のヘルニアで坐骨神経痛があるとの事です。

若い頃から前傾姿勢でお仕事したり、近年も重労働をされていたようです。

立位姿勢や各関節の動きをチェック

まっすぐに立ってもらうように指示すると、身体全体が右に傾き前傾姿勢になっています。それがこの患者さんの自然立位で、そうでなければ立ってられないような状態でした。

身体を無理に起こそうとすると左大腿や腰に痛みが出るから自然と上記のような立ち方になります。

続いてうつ伏せになってもらって、全体の関節の可動域を検査します。

両膝の関節を水平面で同時に屈曲する検査をしてみると、痛みのある左側の膝は100°近く屈曲したのに対して、痛みのない右側の膝は30°くらいで関節可動に制限がありました。

自力で同じ様に膝を曲げると、たぶん痛みが起きて左膝の方が曲がらないと思いますが、膝を曲げる筋肉のハムストリングスなどに収縮を起こさせないように膝を曲げるため痛みは起きません。

逆に痛みのない右側はこの坐骨神経痛をかばう身体の使い方をするため、右に体重をかけ大腿四頭筋が緊張し膝に過度の運動制限が起きていました。

L1からL5の棘突起を指で挟みなぞると大きく左に傾き歪んでいます。ヘルニアの患者さんの腰椎を触ると、いつもこの歪みを触診できるのですが、今回は過去の患者さんと比べても歪みが大きいので、改めて症状の強さを感じます。

仰臥位から背臥位に寝返りをしてもらう時も強い痛みを出ます。寝返りは寝返る時に必ず腰椎が捻れるので、ヘルニアの人や腰椎に問題がある人には辛い動きになります。

他の検査の股関節や肩関節でも、左右の各関節が対称性に関節が機能せず、左右の下肢や上肢の筋肉に緊張差があることが確認できました。特に肩甲骨の高さが違いがありました。左肩が上がり左肩甲骨が大きく外転し、左右同時に肩関節を屈曲すると右の肩関節が屈曲が出来ず、肩甲骨や上肢の運動に関連する僧帽筋や広背筋などの筋肉の左右の機能の違いが確認できました。

この患者さんは検査で下肢や上肢を動かす時に特に痛みが出なかったので、普通に施術出来るなあと思いました。ただ軽症のヘルニアではないことは事実なので、この時点ではまだ全く改善する気配は感じませんでした。

脊椎の歪みと肩甲骨の強い左右差をもとに施術の組み立て

もう5年や10年と施術にきてくれている患者さんは普通に施術しますが、このような患者さんは同じように施術は難しいです。検査、施術、再検査で約30分くらいでしたが、ほとんど検査に時間を費やし、施術そのものの時間は約10分程度だと思います。それほど慎重にしないとヘルニアなどの坐骨神経痛は痛みが起きる可能性があります。

バランス療法の施術の考えの一つに、症状に関係なく全身の筋骨格を調えることで症状の改善を目的にしているため、このような下肢に強い症状がある場合、上肢から施術しその反応を確認しながら下肢に施術へと移行するようにしています。

今回は右肩の屈曲制限が強かったので、まず左右の肩関節屈曲が同じ可動性になる施術をしました。特に広背筋が左右同じように働くように施術をします。

広背筋は腸骨や腰椎の棘突起などを筋の起始とし、上腕骨を停止としているため、この筋肉が対称性に働くことは、腰椎や骨盤などの骨格が理想的なポジションにする必要不可欠の条件だと考えています。

この広背筋の左右の緊張差を調える施術をした直後に寝返りをしてもらった時に、患者さんがびっくりした顔をして一言「寝返りが痛くない」と。

良かった…反応がいい。手技療法をされる方は分かってもらえると思いますが、完全に改善しなくとも患者さんの症状が明らかに変化すると施術者はかなり安心します。その後、うつ伏せで肩甲挙筋の緊張差を調え、最初に検査をした両膝の屈曲検査をしました。この時点では、まだ下肢の施術はやってませんが、経験上最初より改善しているだろうと思って検査しました。

全く制限なく両膝が曲がり、もうこれで下肢の施術が出来ると確信し、仰向けで左の坐骨神経を弛緩させる手技をして、立って歩いてもらいました。

立った時点で傾きはなくなり、そして足の痛みで歩けなかったのもほぼ痛みなく歩けるようになりました。

腰椎ヘルニアの症状が改善したが今後の施術はどうするか

とりあえず約束の1回が無事終え、じゃあ今後どうするのか?なんと言ってあげたらよいのか?

その日の施術のことしか考えておらず、その後のことを全く考えていませんでした。

どうしよう…岡山から大阪までは遠過ぎる。施術しても移動でまた元の歪みに戻ってしまうんじゃないか?息子さんに付き添いで来られている状態で2人分の交通費などお金がかかり過ぎる。など色んなことを考えてしまいました。

でも正直に言うしかないので、思ったことを伝えました。

とりあえず来た時より改善したこと。

帰宅しても症状が比較的に安定していたら施術を重ねたら手術が回避出来るかもしれない。

そのためには、ある程度落ち着くまでは週1回のペースで施術し筋骨格を安定させる。

初回に感じたことを3つ伝え、あとは患者さんに決めてもらいました。

手術はしたくないので、頑張って通うと言ってくれました。同時に遠距離から来られることへのプレッシャーを感じます。

継続して施術をすることでさらに改善

7月上旬から、週1回ペースで7回、症状が安定し始めてからは2週間に1回ペースで通ってもらってます。

もう付き添いなしで車椅子も必要とせず来院し、現在の症状は無理な作業をすると腰に痛みが出るものの、左の下肢に痛みや痺れは無く、この状況が安定すれば手術も回避出来るのではと思います。

まだまだですが、悪化していく一方だった症状が改善の方向に向かっているので本当に良かったです。