東京と大阪で開催している手技セミナーの内容と人体の考察

2018年3月の東京セミナーは肩関節の屈曲筋・外転筋を調整する手技を行いました

今回の手技は、肩関節にアプローチする手技です。緩いネジを締めるように、緩い側の肩関節を締める手技です。

肩関節の他動運動検査の際、肩関節の屈曲作用と外転作用が強く機能し、関節運動が緩く遠心性に機能する側に手技を行います。

遠心性に機能する側の肩は、肩こりや頸肩腕症候群などの症状が出やすい側になることが多く見られます。

この手技を行うことで、肩関節周辺の筋肉を正常に機能させ、本来の肩関節の運動にする事が出来ます。

受け手の肩関節の動かし方

前半の動き

まず受け手を仰臥位で寝かせます。

肩関節検査の動きを比べ、屈曲動作の可動域が広い側に行います。

次に対象となる上肢の前腕遠位周辺を掴み、肩関節を外転運動のような軌道で動かし始めます。

肩関節を外転させながら、受け手の手関節は肩部正中線上まで移行させます。この時肘関節は伸展させ、手関節は背屈位から掌屈位へと移行させます。

受け手の上腕骨が肩関節とほぼ同じ高さまで外転したら、受け手の正中線の方向に外転を続けます。この時、受け手の肘の角度をキープしたまま正中線に近づけ、やや少し小さめの外転軌道で上腕骨、肩甲骨、鎖骨に負荷をかけないように動かします。受け手の手関節が正中に来たら動きを止めます。

スタートから正中までの動作は、一回の呼気時で終わるようにします。

ここまでで一番起こしやすいミスは、外転時の上腕部や前腕部の捻れと、正中に近づける時に肩関節全体を牽引しながら外転運動をしてしまうミスが多く見られます。

後半の動き

正中から上肢を戻す動作は、肘関節の伸展位をキープしたまま手関節から戻すように肩関節を伸展し戻します。

床に肘が着く時にやや肘関節が屈曲し、手関節が背屈している状態で終わります。

正中から最後までの動作は、一回の吸気時で終わるようにします。

ここで一番起きるミスは、肘関節を伸展ではなく屈曲して戻してしまうミスです。上腕骨が内旋と外転をし肩関節が捻れる動きになります。肩関節に捻れの刺激を与えると筋肉が緊張し、正しい肩関節の機能に戻すことは出来ません。

術者の動き方

今回の手技のフォームは比較的単純な動きですが、単純な動き程精密に動かさなければ結果が出ません。

まず術者は、仰臥位に寝た受け手の頭部の上に正座します。

受け手の前腕遠位を掴む時、術者が取りに行く側の肩関節の動きが非常に重要です。この時に自分の上腕を内旋や外旋しながら受け手に掴みにいくと、必ず捻れが加わり思った通りの手技が出来ません。

このように受け手に触れる前から術者の仕事は始まっています。

ここからは動作のみの説明とします。

ポイントは4つあります。

〜右上肢に手技を行う場合〜

1. 手技の準備の動き

肩関節外転位から水平内転、肘伸展、前腕回外、やや尺屈、掌屈で準備。この時左上肢は、右上肢の真逆の動きを同時に行う。

2. 手技の始動から水平外転の動き

受け手の前腕遠位を掴んだまま、やや水平外転に近い動きを行う。この時も自分の上腕骨を捻らないように水平外転を行う。上腕骨を捻って動かせば全て受け手に伝わってしまい、受け手の右上肢全体に筋収縮が起きてしまう。そして左上肢も同じように真逆の動きを行う。

3. 正中への内転の動き

受け手の上肢を相手の肩関節の高さまで動かしたら、正中に入る動きになる。この時肩関節の内転運動をしながら、肘関節屈曲、前腕回内、尺屈解除、背屈の動作を行う。左上肢も真逆の動きにする。

1.2.3.の動きを例えると、大型トラックのハンドルを両腕で大きく左に切る動きで準備、右に切る動きで手技がスタート、とイメージすると分かりやすい。

4. 正中から戻す動き

正中にある自分の上肢と受け手の前腕遠心部を戻す動き。自分の肩関節を早めに屈曲させ、肘関節伸展、前腕回外、やや尺屈、掌屈しながら元に戻す。戻す軌道は高い位置を通る。高い位置を通すことで肩関節の伸展動作がスムーズになり、受け手の肩関節が外転を防ぐことにもなる。

これ以外に術者の下半身の動きも重要ですが、ここでは割愛させていただきます。

実際の臨床の場で手技を行うと、腕の重さだったり受け手の脱力加減だったり、受け手の筋肉量や疼痛などでも全く違います。

それは練習をして、多くの経験を積まなければならない部分だと思います。

セミナー後記

今月は1人の男性の見学者が最後まで参加して頂き、バランス療法の体験やセミナー生の練習相手にもなってもらいました。

男性は大学卒業したての若い方です。アマチュアではあるもののプロのロードバイクチームに所属していたとのことで、一般男性よりもかなり太い大腿部や立派な臀部の筋肉でした。いわゆるアスリートの身体です。

この男性を検査してみたところ、膝関節の屈曲角度の差、股関節の屈曲差や外旋の差、肩関節の屈曲の差が左右で明らかにありました。

普段アスリートを施術する際に思いますが、アスリートほど四肢の動きがアンバランスだと感じます。やはりそれぞれの運動により、徐々に筋作用に左右差が生じ、動きがアンバランスになっていくのだと感じます。

そして一般人とは筋力が違うため、少しでも左右の動きに差が出ると故障の原因となると思います。

この男性も右の下肢に故障を抱え、自転車を漕いでいると明らかに右側の疲労が早く起きてしまい、右腰にも痛みが出るとのことです。

立っているだけでも身体が左に傾き、普段から右側で体重を支えられていないことが分かります。

検査をすると左右の手足の動きに大きく差があり、その差を感じた男性はこの差が自転車のパフォーマンスを落とす原因の一つとも理解をしてくれました。

今回の手技を受けてもらい立ってもらうと、両足でしっかり立てていることが分かってくれたようです。この身体で自転車を漕ぎたいと言ってました。

私は、生きていることそのものが筋肉のパフォーマンスだと思っています。その筋肉が左右同じように使えれば自由度が増し、より高い質で生活できると思っています。

アスリートには、それぞれの競技に必要な筋肉の量としっかり使える質の両方が重要だと思います。