東京と大阪で開催している手技セミナーの内容と人体の考察

2017年12月の東京セミナーは肩関節伸展筋の緊張を調整する手技をテーマに開催しました

今年最後の東京セミナーでした。

作業療法士の女性1人と柔道整復師の男性2人の見学者を交えてセミナーを行いました。

当会では見学者も一緒に検査や手技を受けてもらい、健康に対する考えや症状がある身体はどんな関節運動、筋肉の状況であるかを身を持って体験してもらっています。

今回も先月と同じく、肩関節検査において屈曲し難い側、伸展し易い側に手技をするターニング操法を学んでもらいました。

左右の肩関節の運動差に対しての手技

肩関節には屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋の運動がありますが、今回は主に屈曲伸展の左右の運動差を検査で確認し、屈曲劣位伸展優位側に対してアプローチする手技を行いました。

肩関節伸展優位側にアプローチ

他動にて肩関節屈曲検査を行い屈曲運動に左右差があった場合、屈曲優位側と反対側は屈曲劣位側になります。逆に言えば、屈曲劣位とは伸展優位とも言えます。

よって左右差を比べた上での肩関節伸展優位に働く筋肉は、広背筋、三角筋後部、大円筋、小円筋等になり、これらの筋肉にアプローチすることになります。

上記の筋肉は反対側の同筋と比較して緊張している事が言えるため、これらの筋肉を弛緩させる目的で行う手技です。

同時に肩関節屈曲劣位側にもアプローチ

肩関節伸展優位側の同側肩関節屈曲筋は、反対側より緊張し難い筋肉とも言え、ターニング操法をする際に肩関節屈曲を吸気時に行うこと屈曲筋を緊張させる目的もあります。

この場合緊張させたい筋肉は三角筋前部と烏口腕筋などです。

肩関節の屈曲に作用する筋肉についてはこちら

文字で表すと複雑ですが、実際の手技はとてもシンプルです。このような手技を考えると人間の筋肉や関節はよく出来てるなあと感じます。

ターニング操法の手順

今回のターニング操法は肩関節伸展優位側に対してですが、反対の屈曲優位側に対しての手技もあります。手技の手順は左右で大幅に違います。今回は肩関節伸展優位側のターニング操法について書きます。

操作前に理解すべき肩関節屈曲時の肘関節と手関節の関節作用

手順の前に、肩関節を屈曲する際必ず理解していないといけない事があります。

肩関節が屈曲へと移行する際、肘関節は伸展し、手関節は若干掌屈するという事です。

特に手関節が若干の背屈位から少し掌屈位方向にするという点がとても重要です。

何気ない動作のため気づき難いですが、背屈位をキープしたまま肩関節屈曲しようとするとスムーズな屈曲出来ず、逆に伸展方向に引き付けられます。

他にも注意点はありますが、手関節のコントロールの有無だけでも効果は歴然の差です。

この手技に限らず、どの手技も3関節の動きの仕組みを知るだけで操作性は上がります。

ターニング操法のポジション

受け手を仰向けに寝かせ、呼吸がし易い第四肋間の高さに手掌を置きます。

受け手の正中線に合わせて術者も座ります。座るポジションは受け手や術者の体格によって違いはありますが、受け手から近くても遠くても操作性に問題が起きます。正しいポジションを身につける事もセミナーでも重要視している点です。

このポジションが正確にできないと、検査や手技の知識があっても受け手に正しい手技を行う事が出来ず、上肢の左右差を改善する事は難しくなります。

持ち手の位置

持ち手の位置は受け手の前腕部となりますが、上記したように肩関節肘関節手関節の3関節の連動を行うためには受け手の前腕部の持ち方が重要になります。

受け手の前腕部の尺骨と橈骨を捻らず、若干背屈にした状態で持つ。この時の術者の3関節の使い方も重要で、理に適った身体の使い方でなければいけません。

操作中の注意点

受け手が動かしているのではなく術者が動かしています。それは受け手の筋肉を収縮させない事を意味します。

術者の動きに問題があれば受け手に伝わり、関節が捻れたり筋肉に過剰な刺激が伝われば、受け手の筋肉は収縮を起こし、操作性が著しく低下し、手技のクオリティーが下がる結果となります。

術者が自らの身体をどう動かすかで手技の効果は変わっていきます。

ターニング操法の軌道

術者は受け手の上肢を矢状面と平行に且つ肩部正中線上に肩関節屈曲、肘関節伸展、手関節掌屈動作を行います。

この時、受け手の上腕部を内旋も外旋もしないように肩関節の屈曲を行う必要があります。

上肢の挙上が可動域まで達したら、先ほどの関節運動とは逆の動きで戻します。

この時、肘関節の屈曲を早めにする事で上腕部の内旋を起こさせず戻す事が出来ます。

ターニング操法は呼吸と関係

今回の手技は上肢からアプローチする手技ですが、筋の起始部が肩甲骨だったり、鎖骨や肋骨など、呼吸に関連する筋肉へのアプローチとも言え、胸郭の動きを確認しながら操法を行う必要があります。

ターニング操法のミスするポイント

一番のミスは最初に矢状面方向へ動かす際、軌道が小さかったり、肩部正中線から外れ肩関節を外転内旋運動をさせてしまう事です。

次に多いミスは、ポジショニングのミスです。大抵の場合、受け手から遠いポジションから手技を始めてしまい上手に操作出来ません。

単純ではあるが繊細な手技

私が普段の臨床で使わない日がないくらい選択する頻度が高い手技です。

シンプルで患者さんの症状の変化も大きく変化するこの手技は決して欠かすことが出来ない手技ですし、これからも磨きをかけなければならない手技の一つです。

これまでも重度の腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の患者さんのバランスを揃える場合、殆どの場合下肢に手技を行うことが難しく、そのような時には重宝する手技です。

あと呼吸運動のトラブル解決にも非常に効果を発揮してくれます。

セミナー後記

今回は3人の見学者の方のうち、柔道整復師の男性が最後までセミナー見学を希望され、折角なのでセミナー生の練習台になってもらいました。

この方は50歳の男性でしたが、右膝が痛く正座する事が出来ませんでした。

右肩関節が左より伸展が優位だったため、右側のターニング操法を受けてもらいました。

今回この手技を初めて学んでいた女性のセミナー生が手技を行い、検査を確認すると肩関節の動きに左右差が無くなったので、正座してもらうと右膝の痛みは消え綺麗に正座する事が出来ました。

今度は許可を得て、手技をしていけない左上肢にターニング操法をしてもらいました。検査をすると肩関節に左右差が出て、そしてまた痛みで正座が出来なくなりました。

もう一度本来やるべき右側に手技を行うと、再び痛みなく正座が出来ました。

まだ回数の少ないセミナー生でも、左右の筋肉の緊張差を確認し、手技を行うルールを理解すれば必ず変化は出せるんです。

全身の筋肉と骨格が左右対称性に機能すれば、膝を触らなくても膝を正常に機能させることは可能だという事をセミナー生も見学の方にも分かってもらえた今回のセミナーでした。

今年の8月から東京でもセミナーを始めましたが、来年も一生懸命手技や健康観を伝えていこうと思っています。

そして一人でも多くの治療家に学んでもらい、苦しんでいる人の手助けができる治療家の育成が出来ればと思っています。

                         Balance Seminar      為 規彰