東京と大阪で開催している手技セミナーの内容と人体の考察

2017年11月の東京セミナーは胸筋神経からの調整をテーマに開催しました

2017年11月26日に、東京で開催した手技セミナーは、胸筋神経の調整を学んでもらいました。

今回の手技の概要や、大胸筋に対する考え方、手技の注意点を振り返ってみたいと思います。

大胸筋の緊張を調整する手技

胸筋神経支配の中で重要な筋肉は大胸筋です。

今回の手技は、検査をして左右どちらの大胸筋が筋緊張を起こしているかを確認し、緊張が強い側の大胸筋の各起始部周辺に刺激を与えることで大胸筋が左右同じ様に機能させる事を目的とした手技です。

大胸筋の機能と全身に与える影響

バランス療法が重要と考える大胸筋のポイントは、大きく分けて運動時と安静時の2つあります。

大胸筋の収縮時(運動時)

・大胸筋の緊張差があれば、必ず肩関節の屈曲運動に差が出る。

・肩関節の屈曲運動の差があるという事は、肩関節に起因する骨の変位が起こることは明白であり、胸骨、鎖骨、肋骨、停止部の上腕骨への影響は避けられない。

・その影響が頭部や脊柱の傾きなど骨格に影響を与え、体全体の中心軸が傾く事になる。

・この状態が長期に渡ると、全身の各関節に負担をかけ、筋力も低下し、呼吸など生理的機能の低下など健康な状態を保持し難くなる。

大胸筋の安静時の影響

・睡眠中や安静時の吸気時に外肋間筋と横隔膜でガス交換を行うが、大胸筋の緊張差がある場合、大胸筋の起始部である胸骨や肋骨や鎖骨に影響を与え、胸郭にわずかな捻れが生じる。

・胸郭に捻れがあると安定した呼吸運動が出来ず酸素確保のため、その他の呼吸器筋を使わざる得ない。特に睡眠時は本来一番少ないエネルギーでガス交換をしたいが、胸郭の捻れにより運動時ほどではないが、わずかに強制吸気筋を使い吸気時の運動のサポートをしなければならない。

・強制吸気筋の1つに大胸筋や僧帽筋や胸鎖乳突筋など様々あるが、これらを睡眠時に使用する事で快適な睡眠の妨げになり、生理的な観点からも健康的には決して良くない。

・いまよく言われる口呼吸も原因は他にもあると思うが、安静時呼吸が出来ない筋骨格の状態では強制吸気筋を使用し、結果口呼吸にせざる得ないと思われる。

しかしその影響は微々たるもので、その影響で呼吸困難に陥ることはあり得ない。

大胸筋の緊張と弛緩を確認する検査

大胸筋に限らず、筋機能の左右差を確認する検査において必要な条件は、術者は受け手の手足の筋肉に筋収縮をさせず動かす事が必須となります。

受け手の筋収縮が起きれば左右の筋の機能差を確認する事は出来ません。

今回の大胸筋の左右の状態を確認する検査は、他動運動で左右同時に肩関節を屈曲し、屈曲差で大胸筋の機能差を確認します。

肩関節を屈曲しづらい方が大胸筋緊張側

解剖学の本や私も解剖学の授業で大胸筋は肩関節は屈曲筋と習ったと思います。実際に屈曲筋には間違いありません。

しかし、大胸筋に左右に緊張差があった場合は緊張側が肩関節屈曲に制限がかかります。緊張側は運動開始時は優位に機能しますが、上腕骨がある程度の高さを超えると停止部が起始部から離れ、緊張側は屈曲の制限が起き、反対側は制限がないため最後まで屈曲できます。

今回の手技はその屈曲制限を改善するための手技です。

大胸筋緊張側を弛緩させる手技

鎖骨部、胸肋部、腹部の3箇所の起始部に手指で軽く刺激を与えます。

マッサージなどで緩めるなどの考えではなく、触れる程度の押さえでも緊張した筋肉は変化します。

手技において重要なポイントは、術者がどんなポジションを取り、下半身の使い方、上半身の使い方で手技の効きが大きく変わります。

正しいポジションで正しい身体の使い方ならば、施術者の力も抜け姿勢も綺麗で自らの呼吸も安定して行えます。

緊張した筋には呼気で刺激を開始し、呼気で終わる事も重要です。

大胸筋の緊張を起こさないように注意する

東京セミナーは大阪ほど人数がいないため練習相手になる時間も増え、その分改善ポイントの指導も増えます。

今までもそして今回もみんな同じ箇所で出来ず躓きます。

腹部の刺激を固定した状態で肋骨部を刺激する時にどうしても前腕部分を綺麗に返せず(肘屈曲位で前腕回外できない)、広い面で肋骨部を触れず狭い点の状態で触れてしまい、刺激が強くなってしまいます。これでは大胸筋を逆に緊張させる結果にしかなりません。

このような場合の陥りがちなミスとして、操作している手に問題があると思ってしまいます。しかし、それ以外の四肢の使い方に問題がある事がほとんどで、今回も腹部の固定をしている肩の屈曲角度や肘の回内の不足が肋骨部の操作性を悪くする結果となるのです。

人は動かしている方ばかりに気を取られ、動かず静止している側が疎かになる事はよくあります。

例えば箸を持ち食事する場合も、箸を持っていない側の使い方で咀嚼力も格段に違います。

一つの動作は全身の連動で行われている。

その事を理解すればもっと手技の精度は上がり、患者さんを自在に操れるようになれます。

まとめ

今回の胸筋神経の調整は見た目がとてもシンプルな手技です。

しかし見た目とは違い、患者さんの上肢の動きを大幅に変えるダイナミックな手技だと思っています。

呼吸や睡眠が浅かったり、咳が止まらず苦しんでいた患者さんの左右の大胸筋の機能を整える事で改善出来ました。

患者さんも術者もつい強い刺激を求めがちですが、人の筋肉への施術(刺激)はまずは機能差を確認し、その機能差に対して適切な刺激を与える事で、筋肉は正常に機能すると考えます。